【医療法の最前線】「調剤業務の一部外部委託」と規制改革:医療法務の視点から解説

異なる法人間での調剤の一部外部委託

大阪の国家戦略特別区域において、異なる法人間で薬局で行われる調剤の一部外部委託が始まったとの報道がされています。

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2024年10月22日、アイン薬局平野加美店(株式会社アインファーマシーズ)で応需した処方箋における調剤業務の一部(一包化)をハザマ薬局 平野センター(ファルメディコ株式会社)に委託した。」

薬局DX

現在の診療の一般的な流れでは、患者さんは医師の診察を受けた後、処方箋を受け取り、クリニックの近くや近所にある薬局(院外処方の場合)で服薬指導を受け、調剤された医薬品を受け取ります。患者さんの多くは、診察の待ち時間よりも薬局で医薬品を受け取る際の待ち時間について不満をお持ちのようです。

そのような医薬品の受け取り方はこれから大きく変わる可能性があります。

例えば、患者さんの状況によっては、オンラインで医師から診察を受け、電子処方箋を使ってオンライン服薬指導を受けた後、翌日医薬品を配送で受け取る、といった診療が一般的になれば、患者さんの負担は大きく減り、医療機関への受診に対するハードルは今以上に下がることになるでしょう。

薬局DXは医療を大きく変える可能性を秘めています。最近ではアマゾンジャパン合同会社が処方薬の取り扱いを始めた(「Amazonファーマシー」)ことが大きなニュースになりました。なお、同サービスは「ファーマシー」と名付けられていますが、当該サービスに関し、同社が薬局店舗や薬剤師、医薬品在庫を持つものではなく、アプリ上で他の薬局に患者さんを誘導し、配送の委託を当該薬局から受けることを中心とするものとなっています。

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今回は、薬局において薬剤師が行う業務の柱である「調剤」がテーマです。

【本稿の内容】

薬機法施行規則により調剤の外部委託は禁止されていますが、規制改革により一包化について外部委託を制限的に実施することが検討され、大阪の特区で異なる法人間での一包化業務委託が開始され注目されています。委託先を三次医療圏内に限定することが合理的かなど、今後の検証が必要です。また、誤調剤時の責任分担を契約で明確化する必要があります。調剤と上記実施されている一部外部委託について基本的なところから解説します。

「調剤」とは

まずは、「調剤」が何を意味するのかをみてみましょう。医療機関の皆様においても薬剤師さん以外はあまり馴染みのない分野かと思います。

「調剤」について大審院明治憲法における最上級審の裁判所)は、「一定の処方に従いて一種以上の薬品を配合し若しくは一種の薬品を使用し、特定の分量に従い特定の用途に適合する如く、特定の人の特定の疾病に対する薬剤を調製すること」(大正6年3月19日大審院刑二部判決)と広範に解しました。

一方、行政上は、薬生総発0402第1号「調剤業務のあり方について平成31年4月2日によって、具体的な行為について解釈が示されています。

すなわち、以下1.のものが調剤に含まれ、2.については含まれないとの解釈が示されています。実務上は、この通知に沿って、ある行為が「調剤」に当たるかについて検討する必要があります。

1.「調剤」に当たるもの

・PTPシートなどによって包装された医薬品の必要量を取り揃える行為

・一包化した薬剤の数量の確認行為

・軟膏剤、水剤、散剤等の医薬品を直接計量、混合する行為

※ 一包化とは、用法が同一な複数の医薬品を一つの袋にいれ、まとめる調剤方法のこと。医薬品をシートから取り出し、機械で包装する作業があるため、時間を要する。

 

2.「調剤」に当たらないもの

・納品された医薬品を調剤室内の棚に納める行為

・調剤済みの薬剤を患者のお薬カレンダーや院内の配薬カート等へ入れる行為、電子画像を用いてお薬カレンダーを確認する行為

・薬局において調剤に必要な医薬品の在庫がなく、卸売販売業者等から取り寄せた場合等に、先に服薬指導等を薬剤師が行った上で、患者の居宅等に調剤した薬剤を郵送等する行為

 

「調剤」に関する法令の定め

次に、「調剤」に関する法令の定めをみてみましょう。

薬剤師法19条は、「薬剤師でない者は、販売又は授与の目的で調剤してはならない。ただし、医師若しくは歯科医師が次に掲げる場合において自己の処方箋により自ら調剤するとき、又は獣医師が自己の処方箋により自ら調剤するときは、この限りでない。」として、薬剤師による「調剤」の独占を定めています。さらに、薬機法施行規則11条の8では、「薬局開設者は、その薬局で調剤に従事する薬剤師でない者に販売又は授与の目的で調剤させてはならない。」と定めます。また、同11条の11においても「薬局開設者は、調剤の求めがあつた場合には、その薬局で調剤に従事する薬剤師にその薬局で調剤させなければならない。ただし、正当な理由がある場合には、この限りでない。」と定めており、これら各規定によって、「調剤」は、当該薬局で従事する薬剤師によってなされなければならず、これを異なる法人に業務委託することが許されていません

調剤業務の規制改革

本邦において、2022年頃から、地域医療を担う薬剤師の役割の拡充が図られてきました。薬剤師は、約32万人と多数が存在し、かつ、高度な薬学的専門性を有しています。そこで、薬剤師を地域医療のキープレイヤーとして、医師、看護師、介護職員等と連携して地域住民の健康を支えるよう役割を強化する施策が打ち出されたのです。当該薬剤師の役割強化の中で、調剤業務の外部委託について、見直しがされることとなりました。以下、その経緯をご説明します。

団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年に向け、「患者のための薬局ビジョン」の達成、「地域包括ケアシステム」の構築に向けた規制改革が進められました。その一環として、内閣府の規制改革推進会議に設置された「医療・介護・感染症対策ワーキンググループ」において薬局DXが議論検討されました。

2022年5月27日「規制改革推進会議」において「調剤の安全性・効率性の向上を図る観点から、薬局における調剤業務のうち、一定の薬剤に関する調製業務を、患者の意向やニーズを尊重しつつ、当該薬局の判断により外部に委託して実施することを可能とする方向で、その際の安全確保のために委託元や委託先が満たすべき基準、委託先への監視体制などの技術的詳細を検討する」と記載され、同年6月4日には当該内容の答申を受けて、規制改革実施計画として「薬局における調剤業務のうち、一定の薬剤に関する調製業務を、患者の意向やニーズを尊重しつつ、当該薬局の判断により外部に委託して実施することを可能とする方向で検討する」旨が閣議決定されました。そして、同年7月 11 日には、厚生労働省において「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループとりまとめ~薬剤師が地域で活躍するためのアクションプラン~」(以下「厚生省報告書」という。)が策定されました。

厚生省報告書では、薬剤師の❶対人業務の更なる充実、❷ICT化への対応、❸地域全体で必要な薬剤師サービスを、地域の薬局全体で提供していくという観点が提言されました。

ここで、上記「❶対人業務の更なる充実」とは、地域の薬局薬剤師において、対物業務(薬剤の取り揃え、監査)や処方箋受付時に生じる対人業務(処方確認、疑義紹介)の負担を減少させ、調剤後のフォローや健康サポートに注力させることを目指すとの趣旨です(下図参照)。

 

厚労省「薬剤師の対人業務の強化のための調剤業務の一部外部委託について」より抜粋)

調剤業務の一部外部委託の解禁に向けて

議論の末、厚生省報告においては、「調剤業務の外部委託」については、その解禁が及ぼす影響が不明瞭なことから、以下の具体的内容が定められました。

1.当面の間は委託可能な業務は一包化(直ちに必要とするもの、散剤の一包化を除く)に限定すること

2.委託先は同一の三次医療圏内の薬局とすること

※ 三次医療圏とは、高度で最先端の医療、もしくは精神病棟や感染症病棟、結核病棟をはじめとする専門的な医療を提供する医療圏のこと。 原則として、都道府県が三次医療圏の1単位とされている。

外部委託の実施が可能となった後に必要に応じて対象の拡大の検討を行うことが示されています。

 

調剤業務の一部外部委託の実際

国家戦略特別区域諮問会議を経て実証事業が開始されたわけですが、当該事業では、異なる法人間で一包化の外部委託がされた場合には、下図のとおりのフローで患者さんの下に医薬品が配送されることになっています。

委託元の薬局においては、患者に同意を取った上で一包化の外部委託を行い、一包化された薬剤については最終監査(画像や動画での確認、調剤機器へのアクセスログ等による確認)を自ら行うことが必要となります。

 

厚労省医薬局「薬剤師の対人業務の強化のための調剤業務の一部外部委託について」(令和6年1月30日)

距離制限と薬事法大法廷判決

最高裁昭和50年4月30日大法廷判決・判タ321号40頁は、薬局の地域的な適正配置規制(距離制限)を営業の自由に反し意見であると判断しました。委託先に医療圏の制限を設けることはこの最高裁判例に違反しないでしょうか。当該判例の事案は、旧薬事法5条は薬局開設は知事の許可制として、同法6条はその許可基準を定め、薬局の設置場所が適正を書く場合には許可を与えないことができるとし、既存の薬局から「おおむね100メートル」とする距離制限規定を含む条例が定められていました事案です。最高裁は、当該規制措置が公共の福祉の要求として是認されるかについて「具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容、および制限の程度」を検討し、比較衡量して慎重に決定すべきとしています。

三次医療圏に存在する受託薬局にのみ調剤業務の一部外部委託を許すこととする目的は、距離制限を完全に撤廃した場合に、大規模外部薬局に調剤業務が集約化され、地域の薬局に医薬品の在庫(備蓄品目数、備蓄量)が減少し、自然災害(地震や台風等)等の際にリスクが生じることを防止する点にあるとされています。当該目的は重要なものであり正当であるといえそうですが、職業選択の自由の規制に関する裁判所の審査基準は、極めて厳格な審査基準、すなわち、「重要な公共の利益のために必要かつ合理的であり、他のより制限的でない規制手段では規制目的を達成できないことが認められなければその規制を合憲としえない」とする基準が適用されるといわれており、上記医薬品の在庫の確保や自然災害時のリスクの対策が、上記医療圏の制限と合理的に関連しているか、その他の規制によって達成されないか、について検討されなければなりません。上記判例では、旧薬事法における薬局の許可制は小規模薬局の経営保護を趣旨とするものではなく、国民の生命及び健康に対する危険の防止を趣旨とするものであり、不良医薬品の供給を防止するためのものと解されており、上記自然災害時のリスクを根拠に調剤業務の一部外部委託に距離制限を設けられるかについては全く疑義がないとはいえません。特区における実証事業の結果等も踏まえ、今後も議論がされることになると思われます。

 

処方箋40枚規制

なお、薬局DXのもう一つの壁となる処方箋40枚規制については、上記規制改革実施計画(令和4年6月7日閣議決定)では見直しに向けた課題を整理することとなっておりました。厚生省報告書では、以下のとおり見直しを検討することとなりました。

・単純な撤廃又は緩和では、処方箋の応需枚数を増やすために、対人業務が軽視される危険性がある。

・規制の見直しを検討する場合、診療報酬上の評価等も含め、対人業務の充実の方向性に逆行しないよう慎重に行うべき。

・一方、外部委託を進める場合は、規制が一部外部委託の支障とならないよう、必要な措置を講じるべき。

 

責任分担と契約上の注意点

自動分包機を用いて一包化した際に、分包機に直前の患者の医薬品が残されていたという誤調剤によって患者さんが死亡した事案につき、和解が成立したとの報道もあります。

薬局が他の法人に調剤業務の一部外部委託をする場合には、この種過誤発生時の責任分担を定める条項も契約に含めることを検討すべきといえます。

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以上