近年、医療現場における未解決のニーズをきっかけとして、医師をはじめとする医療従事者の手によって医療イノベーションに繋げることが期待されています。
実際、医療従事者や医療機器メーカーに属していない技術者によって医療機器の申請について質問を受けることは多くあります。
そこで、この記事では、医療機器の許可の種類や承認申請の流れを基本的なところから、解説したいと思います。新規医療機器の申請についてお考えの方に参考になればと思います。
中心となる法律は薬機法(医薬品・医療機器等の品質・有効性及び安全性の確保等に関する法律、旧薬事法、本稿では単に「法」といいます。)です。薬機法は、医薬品や医療機器の開発から市場への導入までのプロセスを厳格に規制するとともに、広告や市販後の安全対策、監視指導等についても規定しています。このプロセスの中核を成すのが、各種許可及び承認申請ですが、薬機法の概要から説明を始めます。
1 薬機法とは
薬機法の対象
薬機法が対象とする「医薬品等」とは以下の5種類をいいます(法1条)。
・医薬品
・化粧品
・医療機器
・再生医療等製品
薬機法における各段階の規制
薬機法は、上記5種類について、有効性、安全性を確保する各規定を図1の各段階において置いています。
薬機法におけるプレーヤーと必要となる許可
薬機法は、医薬品等を製造、販売等するにあたり、医薬品等を製造、これを流通に置くなどを行う各プレーヤーについて、許可等を取得することを要求しています。
必要な許可等は、製品の種類によっても異なりますが、概ね以下のとおりです。
誤解しやすい点として、薬機法は、「製造」と「製造販売」とを異なる概念として規定しております。端的にいえば、製造のみを行う場合を「製造」と呼称してこれに製造業許可を求め、製品を流通に置き販売後の安全性及び品質の責任を負うことを「製造販売」と呼称して(正確には法2条13号)、これに「製造販売業許可」を求めています。これに加え、卸売りなどの販売のみを行う場合は「販売」として販売業許可を得ることが求められます。
品目ごとの承認
医薬品等を流通させるためには、プレーヤーとしての許可を得ているだけではなく、流通させようとする品目(医薬品等)自体についての承認等を得る必要があります。
医薬品については、薬機法上、大きく医師による処方が必要な処方箋医薬品とそれ以外に分類されています。
また、医療機器については、薬機法上、そのリスクの程度に応じて、次のとおり分類されており、各医療機器について必要となる承認等の手続は異なっています。
上記クラス分類の判断は、クラス分類表(各都道府県においてホームページに掲載されているかと思います。)を参考にしながら行うこととなります。注意すべきは、体温計や血圧計がクラスⅡに分類されるなど、疾病の診断、予防を目的とする医療機器については、通常の感覚よりも高度な分類がされている点です。
また、上記クラス分類以外にも、「特定保守管理医療機器」として、医療機器(高度管理、管理、一般)のうち、保守点検、修理その他の管理に専門的な知識及び技能を必要とすることからその適正な管理が行わなければ疾病の診断、治療又は予防に重大な影響を与えるおそれがあるものについて厚生労働大臣が指定されております。例えば、パルスオキシメーターやX線診断装置がこれに当たります。特定保守管理医療機器については、上記クラス分類とは別に販売、貸与等に高度管理医療機器等販売(貸与)業許可が必要とされていますのでご注意ください(法39条1項)。
以上を踏まえて、医薬品等について申請に必要となる品目ごとの承認等、製造販売業の許可及び製造業の許可等については、表2のとおり整理されます。
*厚生労働大臣により認証基準を定めて指定された高度管理医療機器又は管理医療機器(以下「指定高度管理医療機器等」という。)であり、認証基準に適合するものは、品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の登録を受けた者(登録認証機関)の認証を受けることで製造販売することができます(法23条の2の23第1項)。
**一般医療機器の「設計」のみを行う製造所は登録不要です。
***特定保守管理医療機器については別途上記規制がされています。
2 QMS省令及びQMS体制省令について
QMS省令
製造販売業者は、医療機器の製造及び品質管理に関し、医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(QMS(Quality Management System)省令)に基づき製造管理及び品質管理を行うことが求められ、これが医療機器の製造販売承認又は認証要件の一つとなっています(法23条の2の5第2項第4号(第23条の2の17第5項において準用する場合を含む。)、法80条第2項)。
QMS省令では、製造販売業者に対して品質管理監督システムの確立、管理監督者の責任、製品実現に係る各種工程における文書化、製品のトレーサビリティの確保等が義務付けられるなど製造管理及び品質管理に関して遵守すべき義務が定められています。QMS省令は医療機器に特化した安全性と品質の維持に関する国際認証であるISO13485を基に、日本独自の薬機法の規定を踏まえて作成されたものです(ISO13485の改正に伴い、QMS省令も改正されています。)。外国の企業から医療機器の審査に当たってISO13485を満たす必要の有無を聞かれることはありますが、当該必要はないものの実質的に同等のQMS省令を満たす必要があるということになります。
QMS体制省令
また、製造販売業者には、医療機器又は体外診断用医薬品の製造管理又は品質管理に係る業務を行う体制の基準に関する省令(QMS体制省令))が適用されます。
QMS体制省令においては、医療機器の製造販売業者に対して、QMS省令で定められた医療機器の製造管理又は品質管理に係る業務に必要な体制を適切に行うために必要な組織の体制を整備する義務が課されています。
3 市販後調査に関する省令
GPSP省令
企業が実施する製造販売後調査及び試験は、一定の信頼性基準であるGPSP(Good Post-marketing Study Practice)省令(「医療機器の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」)を満たしていなければならないとされています。GPSP省令では、製造販売後調査等として、製造販売後臨床試験、製造販売後データベース調査及び使用成績調査(一般使用成績調査、特定使用成績調査及び使用成績比較調査)を行うことが義務付けられています。
GVP省令
GVP(Good Vigilance Practice)省令は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品の製造販売後安全管理の方法を定めた基準です。医薬品等の製造販売業が許可を得るために遵守が求められている省令(法12条の2第1項2号、23条の2の2第1項2号及び23条の21第1項2号)の一つです。具体的には、安全管理情報(医薬品等の品質、有効性及び安全性に関する事項その他適正な使用のために必要な情報)の収集、検討及びその結果に基づく必要な措置を行うことが求められます。また、これらの製造販売後安全管理を行う体制を自己点検や教育訓練を通じて維持するよう求められています。GVP省令とGPSP省令の関係は、下図のとおり整理されます。
4 医療機器等の承認申請の実際
医薬品等の承認プロセス
医療機器を含めた医薬品等の承認申請は、概要以下のプロセスを経て承認されます。
各手続において、申請される方が注意すべき点についてポイントを解説いたします。
⑴ 申請
申請に際しては、申請書及び添付資料を提出します。
申請書
申請書の記載事項と記載に際しての注意事項は次のとおりです。
項目 |
記載事項と注意点 |
類別 |
薬機法施行令別表第一の番号及び類別名を記載します。 |
名称 |
一般的名称及び販売名を記載します。 |
使用目的、効能又は効果 |
適応として想定している疾患名や使用状況、期待される効果についても記載するようにしてください。 |
形状、構造及び原理 |
有効性又は安全性に影響を及ぼす部分については、特に詳細な記載が求められています。 医用電気機器の場合はブロック図を用いて説明する必要があります。 |
原材料 |
有効性及び安全性に影響を及ぼす部分の原材料については、十分に特定する必要があります。 |
性能及び安全性に関する規格 |
当該医療機器に製造元として求める規格を設定し、品質を担保することが望ましいとされています。 |
使用方法 |
準備段階から使用後の処置まで、手順に沿って記載します。特に有効性及び安全性に影響を及ぼす手順は詳細に記載する必要があります。他の医療機器と組み合わせて使用する場合には組み合わせて使用する機器を含めた操作方法を記載します。滅菌が必要なものは、推奨する滅菌法や滅菌条件も記載します。 |
保管方法及び有効期間 |
有効性、安全性及び品質が保証できる期間を設定して記載します。保管に特別な注意が必要なものについては、温度・湿度条件、遮光等の保管条件の詳細を記載します。 |
製造方法 |
原則として、部品受入れ工程から出荷判定を行うまでの工程を記載します。製造条件によって製品の品質、特性等が異なる医療機器は、品質、安全性に大きな影響を与える工程についてその製造条件を記載します。ヒトや動物由来原材料を使用して製造する場合は、ウイルス等の不活化、除去処理の方法等、品質、安全性確保の観点から必要事項を記載する。 |
貯蔵方法及び有効期間 |
有効性、安全性及び品質が保証できる期間を設定して記載します。保存に特別な注意が必要なものについては、温度・湿度条件、遮光等の保存条件の詳細を記載します。 |
製造販売する品目の製造所 |
滅菌医療機器の場合は、登録製造所の滅菌方法を記載します。 |
備考 |
高度管理医療機器、管理医療機器の別、クラス分類、QMS適合性調査の有無、新規原材料を使用したものはその旨等の注意事項を記載します。 |
添付資料
申請者は、医療機器の有効性及び安全性に関する基本要件基準への適合を示す証拠資料として、Summary of Technical Document (STED)フォーマットに従い、添付資料を作成しなければなりません。
提出が求められる添付資料は次のとおりです。
STED形式の項目 |
1.品目の総括 ・品目の概要 ・開発の経緯 ・類似医療機器との比較 ・外国における使用状況 |
2.基本要件基準への適合性 ・参照規格一覧 ・基本要件及び適合性証拠 |
3.機器に関する情報 |
4.設計検証及び妥当性確認文書の概要 ・規格への適合宣言 ・機器の設計検証・妥当性確認の概要 |
5.ラベリング ・添付文書(案) |
6.リスクマネジメント ・リスクマネジメントの実施状況 ・安全上の措置を講じたハザード |
7.製造に関する情報 ・滅菌方法に関する情報 ・品質管理に関する情報 |
8.臨床試験の試験成績等 ・臨床試験成績等 ・臨床試験成績等のまとめ |
9.製造販売後調査等の計画 |
⑵ プレゼンテーション
医療機器申請におけるプレゼンテーションは、審査担当者に当該医療機器の全体像を早期に把握してもらい、全体の審査機関を短縮させることを目的として十分な資料を基に行われるべきです。開発のコンセプトや臨床上の位置づけ、海外での使用状況や承認状況(PMA number, 510K Number等)、有効性・安全性を裏付ける論文等を効率よく当該医療機器について精通した担当者による説明が必要となります。
⑶ 審査における照会事項への回答
なされた質問に対し試験成績等による客観的なデータを添付して回答できる場合には、当該データを資料として提出することが望ましいといえます。主張への裏付け資料の充実度が審査期間や結果に影響を与えますので、十分な資料の添付が必要です。海外における不具合情報を開示しない場合や海外の治験データの一部のみを開示する場合、後にこれが発覚した際には審査担当者の心証を害することから、必要な資料は全てを開示するよう、注意が必要です。
承認審査制度について
承認審査には、通常の審査(約12か月を要します。)以外にも、一定の条件を満たす場合には優先的に短期間での審査形式を選択することが可能となっています。
承認審査制度については、下図のとおりです。
「優先審査」は、希少疾病用医薬品、希少疾病用医療機器又は希少疾病用再生医療等製品の指定を受けた品目(希少疾病用医薬品等)や、①適用疾病が重篤なもの、又は、②既存の医薬品、医療機器若しくは再生医療等製品又は治療方法と比較して、有効性又は安全性が医療上明らかに優れていると認められる医薬品等について優先的に審査するものです。
「条件付き早期承認制度」は、2017年に導入され、生命に重大な影響があり、かつ有効な治療法がない疾患を対象とする革新的な医薬品、医療機器については、患者数が少ない等の理由で検証的臨床試験(多数の患者による有効性・安全性の評価試験)の実施が困難なものや治験の実施に長期間を要する医薬品、医療機器について、製造販売後の有効性・安全性の再確認等を承認条件とすることで早期の実用化を目指すものです。
「先駆け審査指定制度」は、2015年に導入され、世界に先駆けて、革新的医薬品、革新的医療機器等を実用化するため、早期の治験段階で著明な有効性が見込まれる医薬品、医療機器等を指定して、優先的な取扱いにより、承認取得までの期間を短縮し、最先端の医薬品、医療機器を最も早く患者に提供することを目的とする制度です。この制度の対象品目にしてされると、製薬企業等は優先相談、事前評価を受けられるほか、総審査期間を6か月とする優遇措置を受けることができます。
5 まとめ
医療機器を国内で販売するためには、薬機法上次、プレーヤー、製造所及び品目についてライセンス、登録及び承認等が必要となります。
品目については、その医療機器のリスクに応じたクラス分類に対応した承認、認証又は届出が必要となります。
製造販売業者については、医療機器の製造及び品質管理や製造販売後調査等について、各種省令が設けられており、これらについて満たしていることが品目について承認等がされることの要件となっております。
PMDAでは、医療機器を含めた品目の申請に際し、事前協議に対応しており、適切な準備を行うためにも早期からの事前協議をお願いすることがよろしいかと考えます。