- 1 mRNAワクチンの作用機序
- 2 レプリコンワクチンの開発と特徴
- 3 日本看護倫理学会によるレプリコンワクチンへの懸念
- 4 日本看護倫理学会の声明へのMeiji Seikaファルマ社の反論
- 5 シェディングについて
- 6 mRNAワクチンはヒトの遺伝情報(DNA)に影響を与えるか
- 7 応召義務について
- 8 レプリコンワクチン接種患者の診療拒否に関する正当な事由の有無
- 9 まとめ
2024年10月1日より、高齢者らや基礎疾患を有する60歳以上の方に対する新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチンの定期接種が始まっています。今回の接種では、mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンとして、ファイザー社(製品名「コミナティ」)、モデルナ・ジャパン社(「スパイクバックス」)、第一三共社(「ダイチロナ」)及びMeiji Seikaファルマ社(「コスタイベ」)が、組み換えタンパク・ワクチンとして武田薬品工業(「ヌバキソビッド」)の合計5種類のワクチンが用いられます。上記のうち、mRNAワクチンの一種であるMeiji Seikaファルマ社のコスタイベは、次世代方mRNAであるレプリコンワクチンとよばれ、mRNAが自己増殖するとの特徴を有しています。
現在、コスタイベに関しては、美容院等の店舗のみならず、一部の医療機関において当該ワクチンを接種した患者を診療拒否する旨を表明する事態となっています。当該診療拒否については、2024年9月19日、厚生労働省の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会において、当該診療拒否について医師法19条所定の応召義務に違反するのではないかとの懸念が示されるに至っています。(日刊薬業、https://nk.jiho.jp/article/193021)
上記の状況を受け、本稿では、レプリコンワクチンや応召義務について解説したいと思います。

1 mRNAワクチンの作用機序
mRNAワクチンは、ウイルスに対する免疫反応を獲得させるために、タンパク質作成の型となるmRNAを脂質の膜に包んで体内に投与する製品です。ワクチンのmRNAは、細胞内において特定のウイルスタンパク質(通常はスパイクタンパク質)を作るための設計図となり、ワクチン接種後、接種された人の細胞ではスパイクタンパク質が作り出され、これに対応した免疫系がそれを異物として認識することで、ウイルスに対応する抗体の生成や細胞性免疫が活性化されます。この免疫反応により、ウイルスが将来的に体内に侵入した際に、ウイルスを迅速に攻撃し排除(無毒化、無力化)できるようになり、感染自体を防ぐ働きや、感染後の重症化を抑える働きを得ることになります(図1)。
すなわち、mRNAワクチンは、従来のワクチンと異なり、ウイルスの一部を直接使用せず(麻疹や風疹では元となった病原体を投与する生ワクチンや、病原体の毒性をなくしたタンパク質で作られた不活化ワクチンとは異なります。)、病原体の遺伝子を基にして体内で抗原を生成させるという新しい手法です。

2 レプリコンワクチンの開発と特徴
レプリコンワクチンはmRNAワクチンの次世代モデルであり、自己増殖型mRNA技術を使用しています。従前のmRNAワクチンは、体内に投与されると比較的すぐに分解され作用が失われますが、レプリコンワクチンは自己増殖することによってその弱点を補うことができます(図2)。
自己増殖のために、レプリカーゼというRNAを鋳型としてRNAを合成する酵素が用いられます。レプリコンワクチンのmRNAには、ベネズエラ馬脳炎ウイルス(VEEV)由来のレプリカ―ゼがコードされており、これによりmRNAが自ら増殖することが可能となっています。
この技術により、mRNAが細胞内で増幅され、少量の接種量によってより長期間タンパク質を生成できるように設計されています。その結果、従来型mRNAワクチンに比して免疫反応が強化されることが期待されています。
レプリコンワクチンは、2023年11月28日に他国に先駆け、日本で初めて製造販売承認を取得しました(承認申請は、同年4月28日です。)。
コスタイベは、米国のArcturus Therapeutics 社によって開発され、その権利をオーストラリアCSL Seqirus社が保有し、同社と契約したMeiji Seikaファルマ社が日本における製造販売業者となり製造販売されています(製造販売業者については、こちらをご参照ください。)。現在は、EUにおいて承認申請されているほか、大規模治験が実施されたベトナムにおいても追加免疫について承認がされています。また、米国においても承認申請に向けて準備中であるとの情報があります。

前回記事(「薬機法による医療機器承認のガイド:必要な許可と申請方法」 - Medical and Legal Branch(医療法務を学ぼう!))でみたように、レプリコンワクチン(コスタイベ)が製造販売承認を取得したということは、PMDAの審査によって有効性と安全性が認められているということです。
それでは、レプリコンワクチンの有効性と安全性はどのようなものかについて見てみましょう。
コスタイベの有効性
コスタイベの承認申請に添付された臨床試験としては、米国におけるⅡ相試験や、ベトナムにおけるⅠ、Ⅱ、Ⅲ相試験(「ARCT-154-01」との名称がついています。)、日本におけるⅢ相試験(「ARCT-154-J01」との名称がついています。)等があります。その中でもベトナムにおけるⅢb相試験では、プラセボとして従来型ウイルスワクチンを用い、これとの比較で18歳以上の健康成人16107例について行われました(無作為化観察者盲検プラセボ対照並行群間比較試験)。当該治験における有効性(新型コロナ発症割合)については、以下のように高い有効性が報告されています(Nhân, T. H., Hughes, et al . (2024). Safety, immunogenicity and efficacy of the self-amplifying mRNA ARCT-154 COVID-19 vaccine: Pooled phase 1, 2, 3a and 3b randomized, controlled trials. Nature Communications, 15(1), 4081.)。
| 重症化予防 | 発症予防 | |
|---|---|---|
| コスタイベ有効割合 | 95.3% | 56.6% |
また、国内における追加免疫に関するⅢ相試験において、18歳以上の健康成人828例(mRNA型COVID-19ワクチンを3回接種した成人)についての無作為試験においても、以下の表に示すとおり、長期にわたって高い抗体価を観測されており(コロナ感染者を除く被験者の抗体価を示しています。)、コスタイベの有効性が確認されています(Yoshiaki Oda, et al. (2024). Immunogenicity and safety of a booster dose of a self-amplifying RNA COVID-19 vaccine (ARCT-154) versus BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccine: A double-blind, multicentre, randomised, controlled, phase 3, non-inferiority trial. Lancet, 24(4), 351-360.及び同341-343.)。
|
起源株(武漢株) |
コスタイベ |
従来ワクチン |
|
Day 1(抗体価(GMT)、以下同じ) |
813 |
866 |
|
Day29 |
5390 |
3738 |
|
Day91 |
5928 |
2899 |
|
Day181 |
4119 |
1861 |
|
オミクロン株(omicron BA.4/株) |
コスタイベ |
従来ワクチン |
|
Day 1
|
275 |
292 |
|
Day29 |
2125 |
1624 |
|
Day91 |
1892 |
888 |
|
Day181 |
1119 |
495 |
コスタイベは、従来ワクチンに比して、6分の1の量での投与でしたが、それでも長期にわたって中和抗体の持続が認められたこととなります。
コスタイベの安全性
一方で、コスタイベの安全性については、結論としてPMDAの報告書に従前承認されたmRNAワクチンと概ね同等の有害事象が認められたにすぎないとされました。
また、上記国内におけるⅢ相試験における特定有害事象は、次の表のとおりであり(全身性の副作用のうち、主なものを示します。)、従来ワクチンと発生率について有意差は認められないことが分かります。Grade3(重度)以上の特定有害事象については、コスタイベ群が、従来ワクチン群よりも少数となっています(コスタイベに関する審査報告書参照chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20231122002/780009000_30500AMX00282_A100_3.pdf)。
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特定有害事象 |
コスタイベ |
従来ワクチン |
||
|
|
全Grade |
Grade3以上 |
全Grade |
Grade3以上 |
|
発熱 |
84(20) |
2(0.5) |
76(18.6) |
2(0.5) |
|
関節痛 |
112(26.7) |
1(0.2) |
113(27.7) |
2(0.5) |
|
悪寒 |
126(30.0) |
2(0.5) |
103(25.2) |
4(1.0) |
|
下痢 |
28(6.7) |
0 |
17(4.2) |
0 |
|
倦怠感 |
188(44.8) |
3(0.7) |
176(43.1) |
4(1.0) |
|
嘔吐 |
2(0.5) |
0 |
2(0.5) |
0 |
単位は、「件数(%)」となっています。
また、死亡数については、上記のベトナムでのⅢb相試験において、Day1-92において、コスタイベ群で5例、従来ワクチン群で16例が認められていますが、いずれもワクチンとの因果関係は否定されています。その死亡原因は、以下のとおりです。
|
死亡原因 |
コスタイベ |
従来ワクチン |
|
Day1-92
|
COVID-19(9例)、肝硬変、肝癌、大動脈解離、肺炎、敗血症性ショック等 |
以上から、レプリコンワクチンであるコスタイベについては、確かに安全性について従来ワクチンに劣る点は現在のところ認められないように考えられます。
3 日本看護倫理学会によるレプリコンワクチンへの懸念
一方で、レプリコンワクチンについては、その新規性と他国での承認に先駆けて日本で承認されたこともあってか、各所から安全性に対する懸念が呈されています。
日本では世界中で接種がされていたヒトパピローマウイルス(HPV)に対するワクチンも接種がほとんど行われない時期があるなど、昔から予防医療に対してそのリスクを重くみる国民性があるともいわれており、ことレプリコンワクチンに対する不安の声も小さくありません。
レプリコンワクチンに対する上記懸念は、一般社団法人日本看護倫理学会が出した声明が大きな影響を与えているといえます。すなわち、日本看護倫理学会は、2024年8月7日付けで「【緊急声明】新型コロナウイルス感染症予防接種に導入されるレプリコンワクチンへの懸念 自分と周りの人々のために」と題する声明(以下「本声明」といいます。)を発出して深刻な懸念を表明しております(https://www.jnea.net/statement/)。日本看護倫理学会の主張をまとめると、以下のポイントに整理されます。
⑴ 開発国を含む諸外国において承認を受けていないこと
(本声明発出時において)レプリコンワクチンは、開発国である米国や大規模治験を行ったベトナムを含む他の国々でまだ認可されていないところ、海外での認可がない理由には安全性に関する問題を疑わざるを得ない。
⑵ シェディング(接種者から非接種者への影響)
レプリコンワクチンは自己増殖型のmRNAを使用しているため、接種者から非接種者にワクチン成分が感染(シェディング)する可能性が懸念され、ワクチン接種を望まない者へのワクチン成分の取り込みがされる倫理上の問題がある。現在のところ、臨床研究でシェディングについての臨床研究は実施されていない。
⑶ 将来の安全性に関する問題
mRNAワクチンには、人間の遺伝情報や遺伝機構に及ぼす影響が否定できない。最近の研究では、ファイザー社製のmRNAワクチンの塩基配列がヒトの肝細胞のDNAに逆転写されたとの報告もあり、広範囲なmRNAワクチンの使用には問題がある
⑷ インフォームドコンセントの問題
従来のmRNAワクチン接種においても、重篤な副作用が報告されているにも関わらず、被接種者への適切な説明が行われていない事例がある。レプリコンワクチン導入にあたっては、シェディングの可能性も含め、接種者が全てのリスクを理解し、納得した上での同意を得るプロセスが必要である。
⑸ 医療従事者とその家族への影響
レプリコンワクチンが定期接種化されると、率先した医療従事者への接種が強く求められる可能性がある。これにより医療従事者の自己決定権を侵す可能性がある。シェディングにより、医療従事者の家族や周囲の人々への影響も考慮すべきである。
4 日本看護倫理学会の声明へのMeiji Seikaファルマ社の反論
Meiji Seikaファルマ社は、2024年10月9日、本声明に対し、反論を公表しました(「日本看護倫理学会の声明文に対する当社の見解」、chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.meiji-seika-pharma.co.jp/pdf/notice/notice_01.pdf)。
Meiji Seikaファルマ社の反論は、次のとおりです。
⑴への反論
他国での承認については、既にEUにおけるEMA(欧州医薬品庁)への承認申請が最終段階となっていることや、米国をはじめとするEU以外の国と地域においても臨床試験・承認申請の準備が行われている。
⑵への反論
mRNAワクチンはウイルスの一部であるスパイクタンパクしか使用しないため、感染性のあるウイルス粒子を形成しない。そのため、シェディングは起こることはなく、そのような科学的知見もない。これは、厚労省においても同様の見解を発出している。コスタイベの臨床試験においてもシェディングとみられる事象の観察はされていない。
⑶への反論
ワクチンのmRNAがDNAに組み込まれることはなく、ヒトの遺伝情報や遺伝機構に悪影響を及ぼすことはない。本件声明において引用され根拠となっている論文は特殊な条件下で実施された試験の結果であり、生体内の反応を再現しているとはいえない。
5 シェディングについて
日本看護倫理学会による本声明においては、コスタイベに限定しない、mRNAワクチンそのものに対する懸念も示されております。レプリコンワクチンそのものに対する懸念については、シェディングといわれる、接種者から非接種者へのワクチン成分の伝播(「感染」)が主なものとなっていることが分かります。本声明は、「Seneff & Nigh, 2021」という論文を根拠としてシェディングが認められるとの主張です。ここで、当該論文は、International Journal of Vaccine Theory, Practice, and Researchという2020年に創刊された「ワクチンとその成分の開発、配布、勧試に関する査読付きのオープンアクセス学術ジャーナル」(「a peer-reviewed scholarly open access journal concerning the development, distribution, and monitoring of vaccines and their components. 」)であるとのことです。論文検索サイトであるPUBMEDでの検索もできない、およそ医学論文とはいえない論文のようにみえます。
また、当該論文においては、シェディングが認められるとの検証結果やその根拠も記載されていません。当該論文のシェディングに係る記載部分には、脾臓の樹状細胞から放出されるエキソソームに異常なスパイクタンパクが含まれ、当該エキソソームが肺から喀痰等によって放出されて二次暴露が惹起される可能性を指摘しておりますが、当該事象の裏付けはされていないといえます。
そうしますと、本声明に記載された、いわゆるシェディングという現象が生じていることの科学的根拠はないといわざるを得ないように考えます。
なお、エキソソームについては、()でご説明しておりますのでご参考にしてください。
6 mRNAワクチンはヒトの遺伝情報(DNA)に影響を与えるか
この疑問点については、以下のとおり、mRNAワクチンがヒトの遺伝情報(DNA)に影響を与えることはないと、CDCにおいて公式に否定されています。
(CDC, COVID-19 State of Vaccine Confidence Insights Report, Report 25, May 12, 2022より抜粋、
(chrome-extension://oemmndcbldboiebfnladdacbdfmadadm/https://stacks.cdc.gov/view/cdc/117453/cdc_117453_DS1.pdf)。
ここで、mRNAワクチンは、新型コロナウイルス感染症に対して初めて開発・使用されるに至った製品ではなく、20年以上にわたって治療用がんワクチンやインフルエンザ、狂犬病、HIV、サイトメガロウイルス、ヒトパピローマウイルスなどの感染症予防のワクチンとしての使用を目的として開発されてきたバイオ技術であり、現在までにmRNAが体内においてDNAに逆転写されることは確認されていません。
本声明に引用されたAldén らの論文(Aldén et al (2022). Clinical, Translational and Basic Research on Liver Diseases. Curr. Issues Mol. Biol.2022, 44(3), 1115-1126.)は、in vitro(試験管内)におけるヒト肝細胞株(Huh7)にファイザー社及びBioNTeck社によって開発されたワクチン(BNT162b2、コミナティ)が細胞内逆転写をしたとの内容であり、mRNAワクチンの危険性に引用されることがある論文です。しかしながら、当該論文は、実際にワクチンが接種された場合の肝臓におけるワクチン濃度をはるかに超える濃度で行われた実験結果であることや、実際にはmRNAによってスパイクタンパクが作成されることによる免疫反応によってmRNAが導入された肝細胞が除去されることからin vivo(生体内)では上記論文と同様の事象が認められない可能性があることなどが指摘されています(Hamid A.Merchant (2022). Comment on Aldén et al. Intracellular Reverse Transcription of Pfizer BioNTech COVID-19 mRNA Vaccine BNT162b2 In Vitro in Human Liver Cell Line. Curr. Issues Mol. Biol.2022, 44, 1115-1126. Curr. Issues Mol. Biol.2022, 44(4), 1661-1663.)
上記のように、in vivoでmRNAのヒト細胞DNAへの逆転写を認めたとの報告は未だないことから、この点のリスクを重くみるのはエビデンスに欠ける判断といえるかもしれません。
7 応召義務について
医師法19条1項の規定と応召義務の法的性質
次に、診療拒否に関する法律についてみていきましょう。
医師法19条1項は、「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」と定め、医師の応招義務を定めています。応召義務は、講学上、公法上の義務(国に対する義務)であるとして、患者に対して負う私法上の義務ではないとされています。そのため、患者が、医師法19条1項を根拠として、医師又は医療機関に対してに診療を強制する権利は有していません。
刑事責任について
また、医師が、当該義務違反によって刑事罰が与えられるものでもございません(同項違反の刑事上の罰則は定められていません。)。
行政処分について
さらに、「医師が第19条の義務違反を行った場合には罰則の適用はないが、医師法第7条にいう『医師としての品位を損するような行為のあったとき』にあたるから、義務違反を反覆するが如き場合において同条の規定により医師免許の取消又は停止を命ずる場合もありうる。」(厚生省医務局医務課長回答(昭和30年8月12日医収第755号))とする通達がありますが、過去に応招義務違反で医師免許の取消又は停止がされたことは一例もなく、当該処分を発した場合には医師らから強い反発が予想されることからも、今後においても、当該処分がされる可能性は極めて低いものと考えられます。
民事責任について
一方、患者が、医療機関に対し、正当な事由のない不合理な診療拒否がされたとして不法行為等に基づく損害賠償請求を行った事例について、請求が認められた例が数例認められます(但し、いずれも救急搬送に関するもので、生命の危険が切迫しているような事案となります(千葉地判昭和61年7月25日・判例タイムズ634号196頁、神戸地判平成4年6月30日・判例タイムズ802号196頁)。
以上をまとめますと、医療機関としては、「正当な事由のない」不合理な診療拒否をした場合に限り、法的に(民事法的に)責任を負うこととなりますので、各事案において、「正当な事由」が認められるのか、といった視点で事案を検討することが重要です。
正当な事由が認められる場合
正当な事由については、厚労省から、令和元年12月25日付け「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」(厚生労働省医政局長通知(医政発1225第4号))が発出されています。
上記通知によれば、緊急対応が不要な場合(病状が安定している患者等)で、かつ、診療を求められたのが診療時間内・勤務時間内である場合には、「原則として患者の求めに応じて必要な医療を提供する必要がある。ただし、緊急対応の必要がある場合に比べて、正当化される場合は、医療機関・医師・歯科医師の専門性・診察能力、当該状況下での医療提供の可能性・設備状況、他の医療機関等による医療提供の可能性(医療の代替可能性)のほか、患者と医療機関・医師・歯科医師の信頼関係等も考慮して緩やかに解釈される」とされています。また、上記通達は、個別事例ごとの整理において、「医療機関相互の機能分化・連携を踏まえ、地域全体で患者ごとに適正な医療を提供する観点から、病状に応じて大学病院等の高度な医療機関から地域の医療機関を紹介、転院を依頼・実施すること等も原則として正当化される。」として、他の医療機関の紹介・転院等の事例について整理しています。
これをまとめると、以下のような考慮要素によって「正当な事由」の有無が判断されることになります。
- 患者について緊急対応が必要であるか否か(病状の深刻度)
- 診療時間(医療機関として診療を提供することが予定されている時間か)又は勤務時間(医師が医療機関において勤務医として診療を提供することが予定されている時間)内か
- 患者と医療機関・医師との信頼関係は破壊されていないか
これを表にまとめてみますと、概ね以下のようになります。
実際に医師から相談を受けることが多い応召義務ですが、患者の病状が安定している場合には信頼関係が築けていないことをもって診療を断ることができるなど、皆様が考えているよりは診療拒否が違法に当たらない範囲は広いと思われます。しかしながら、信頼関係が築けない場合に診療を拒否できるとするその理由は、あくまでも、医療が患者の健康な生活を確保することにあるところ、診療において患者の協力的態度がない場合には安全で最適な医療の提供が困難になることを理由とすると考えられます。そのため、患者に何らの非が認められない場合や医学的正当性が認められない理由に基づき、一方的に診療を拒否することはできないというべきです。
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病状深刻 |
病状安定 |
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診療・勤務時間内 |
医療機関・医師の専門性・診察能力、当該状況下での医療提供の可能性・設備状況、他の医療機関等による医療提供の可能性(医療の代替可能性)を総合的に勘案しつつ、事実上診療が不可能といえる場合以外は診療に当たる義務が認められる可能性がある。 |
原則として、患者の求めに応じて必要な医療を提供する必要がある。ただし、緊急対応の必要がある場合に比べて、正当化される場合は、医療機関・医師・歯科医師の専門性・診察能力、当該状況下での医療提供の可能性・設備状況、他の医療機関等による医療提供の可能性(医療の代替可能性)のほか、患者と医療機関・医師・歯科医師の信頼関係等も考慮して緩やかに解釈される。 |
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診療・勤務時間外 |
応急的に必要な処置をとることが望ましいが、原則、法的責任に問われることはない ※ 心肺蘇生法等の応急措置実施義務 |
即座に対応する必要はなく、診療しないことは正当化される。ただし、時間内の受診依頼、他の診察可能な医療機関の紹介等の対応をとることが望ましい。 |
8 レプリコンワクチン接種患者の診療拒否に関する正当な事由の有無
以上みてきたように、レプリコンワクチン接種患者について、いわゆるシェディングの危険性があるとして患者を診療拒否することにつきましては、シェディングについての科学的根拠が認められないことからすると、医学的正当性のない危険性を理由として診療拒否をすることとなり、医師法19条所定の応召義務に違反することになる可能性が高いといえます。この場合、そのような診療拒否をすることが「医師としての品位を損するような行為」に当たるとして行政指導等を受けるリスクがあるとともに慰謝料等の損害(慰謝料額は僅少であると考えられますし、その他の損害としては交通費等の実費に留まるように考えられます。)について患者に対し不法行為に基づく損害賠償義務を負うリスクがあるといえます。
9 まとめ
次世代mRNAワクチンであるの新型コロナウイルス感染症に対するレプリコンワクチンについては、従来のmRNAワクチンよりも効果的な免疫応答が期待されているものの、日本看護倫理学会をはじめとして、その安全性と倫理性に対して強い懸念を示す方々がいらっしゃいます。しかしながら、そこで問題視されているシェディングや遺伝子への影響については、未だ科学的根拠はなく、レプリコンワクチン接種患者について診療拒否をすることは応召義務に違反する可能性が高いと考えられます。








