【医療法務】保険医療機関への個別指導と監査の実態と対策ガイド(監査)

 

1 監査とは

監査の概要

前回記事(個別指導、監査について(個別指導))で記載したとおり(【医療法務】保険医療機関への個別指導と監査の対策ガイド(個別指導) - Medical and Legal Branch(医療法務を学ぼう!))、厚生労働大臣による監査は、健康保険法78条等に基づき、保険医療機関等の診療内容又は診療報酬の請求について、明らかな不正又は著しい不当が疑われる場合等において、健康保険事業等の適正な運営を確保するため、的確に事実関係を把握するために行われる手続です。すなわち、監査は、不正の事実が明らかであると思われるときに実施される手続であり、当局において、保険医療機関の開設者、管理者、保険医等の従業員に対して、報告、帳簿類等の提出・提示、出頭を求める法的な根拠をもった、正確な事実関係(真実)の確認を目的とする厳格な手続であることを理解する必要があります(健康保険法78条、船員保険法59条、国民健康保険法42条の2、高齢者の医療の確保に関する法律72条)。

監査に移行する基準とは

監査に移行する基準については、いわゆる詐欺、不法行為に当たるような悪質なもの(不正)、又は、制度の目的から見て適当ではない妥当性を著しく欠いたもの(著しい不当)事案ですが、実際に選定されている事案を接していると、以下のような特徴があると考えられます。

  • 医師又は医療従事者の人数が、人員配置の標準数から著しく欠けているもの(標欠病院)
  • 施設基準について虚偽の届出や報告がされており、当該施設基準が要件となっている診療報酬について不正請求しているもの
  • 詐欺等の刑事事件となり得るもの
  • 新聞、雑誌、インターネット等で不正請求の存在が広く社会に拡散されているもの
  • 従業員や医療監視部局からの情報提供があり、不正請求がされている確度が高いもの
  • 無資格者による診療が疑われるもの

上記以外にも、度重なる個別指導によっても保険診療又は診療報酬請求が適正なものに改善されないときや、正当な理由なく個別指導を拒否した場合にも監査は実施されます。

 

2 監査の実際

⑴ 患者調査について

当局は、監査前に、患者に対し保険給付に係る診療、調剤等の内容に関し、報告を明示、当該職員に質問させることができます(健康保険法60条2項、患者調査)。

患者調査は、直接本人と面談する方法によって行われ、実際の診療内容とレセプトの記載との齟齬を明らかにすることを目的として、診療の回数、日時、内容(検査、注射、手術等の内容)、診療を行った医師等の氏名、診療に関する説明内容、医療費の負担額・支払額が調査され、患者の署名捺印がされた調査書が作成され、将来の不利益処分の証拠資料となります。

⑵ 監査の概要

監査の通知

監査は、原則として開設者宛てに監査実施通知を送付した後に聴取期日が指定され次のとおり実施されますが、組織的な書類の改ざんの恐れがある場、証拠隠滅のおそれがある場合には監査当日に通知を持参し、提出命令によって証拠書類が保全されることも例外的にあります。

ヒアリング(面談)の実際

監査におけるヒアリングは、基本的に監査担当者(厚生局及び都道府県職員等)が対象患者のカルテに基づき、管理者、医師、看護師又は従業員に対し、個別の患者の診療内容や全般的な診療フローについて予め組織内で作成してきた質問を行う形式で行われます。対象患者の件数は、個別指導と異なり、制限はありません。

聴取のテーブルは、状況、事案に応じて、複数用意され、ヒアリング対象者が複数同時に実施されることもよくあります。その場合には、基本的に共通した質問がされ、ヒアリング対象者同士で供述内容に齟齬がないか、レセプトや患者調査(上記⑴)との齟齬がないか、がチェックされます。監査当日は、午前9時半頃から17時頃まで休憩を挟みながら丸一日行われるところ(2~3時間での実施を目途とする個別指導に比べ、長時間に及びます。)、1時間に10分程度の休憩時間と昼休みが設けられますが、昼休みには監査担当者間で対象者の供述内容や関係書類について共有がなされており、午後にその矛盾点について深堀りした質問がされることがあります。ヒアリングの中で、不正又は不当な事実が明らかになってきた場合には、それが誰の指示によってなされたのかといった原因又は背景についての質問がされます。また、当該不正又は不当な診療行為又は請求行為についてヒアリング対象者が何を考えて実行していたのか現在はどのように思っているのかどこに責任があると考えるかについても聞かれることになります。

なお、監査には、医師としての資格に基づき、行政側の立会人として学識経験者が同席することがあります。

ヒアリングにおける主観的事実の認定

ヒアリングの目的が事実関係を把握することであるのは上記のとおりですが、認定すべき事実には、行為者における「故意」又は「過失」といった行為者の主観にわたる部分の事実の有無も含まれています。ここで「故意」とは、犯罪を構成する自らの行為を認識し、それを認容する(よしとして受け入れる)ことを意味します。上記認定される主観的事実として、上記故意、過失以外にも、不法領得の意思の有無(騙取した財物を、権利者を排除して、その経済的ないし本来的用法に従いこれを利用もしくは処分する意思、をいいます。簡単にいうと、「他人の財産を自分のものにして利用しようとする意思」といえます。)も判断されますし、故意を超えた積極的な「害意」や、事案の組織性、計画性を踏まえた法令遵守に対する意識についても認定の対象とされることになります。これらに対しては、質問者の意図を汲み取り、適切な回答をすることが求められます。

聴取録取書の作成

ヒアリングの終了時には、問答形式の聴取録取書がその日のうちに作成され、内容に誤りがないか、表現に問題がないかについてヒアリング対象者に確認を求め、その後署名するように求められます。

ヒアリングにおける注意点は、ありのままを隠すことなく、供述することにあります。事前の口裏合わせや組織からの供述の強要についてはその有無について質問において聞かれることが通常ですし、これが発覚した場合には後の処分に極めて大きな悪影響を及ぼすこととなります。

また、監査手続において作成される聴取録取書は処分決定に際し、処分を根拠づける資料となります。そのため、記載されているニュアンスも含めて慎重に確認し、必要があれば遠慮せずに修正を求めるべきことに注意が必要です。

ヒアリングへの弁護士の帯同

個別指導と同じく、監査においても保険医療機関からの委任状を提出することで弁護士の帯同が認められています。弁護士が直接の答弁をなし得ないことも個別指導と同様ですが、弁護士の帯同は、手続を適正にするための担保(圧迫的な質問や、誘導となる質問の抑制効果)として有効な手段です。特に、監査で作成されるヒアリング対象者の聴取録取書には、保険医療機関について有利となる点が記載されていない、不利となるニュアンスで記載されことが多々あります。私は、元裁判官として、当該聴取録取書が後の事実認定においてどの部分が保険医療機関に不利に採用されてしまうかを判断できることもあり、帯同した監査において聴取録取書をレビューした際には、修正点が見つけられない場合がないほどに修正すべき点は多く存在するといえます。ヒアリング対象者となった方においては、くれぐれも聴取録取書の署名の際には慎重に内容をご確認ください

ヒアリングの録音

ヒアリングは当局に申し出た上で録音することが可能です。ヒアリングの聴取録取書には供述の全てが記載されるものではないことから、当該録音は保険医療機関からの反論のための重要な資料となるため、必ず録音するようにしましょう。将来の取消訴訟(後記4)の際の重要な証拠にもなります。

⑶ 患者個別調書の作成

患者個別調書とは

上記⑴の患者調査の手続では、監査対象保険医療機関等の名称が分からないように配慮された上で、患者本人と直接の面接がされ、患者個別調書が作成されています。この患者個別調書は、監査調査書、最終的な不正・不当金額の積算根拠、内議書等の元となる重要な調書となり、診療と請求に対する行政側の判断を示すものとされています。患者別調書には、当該患者の実際の診療内容とレセプトとの矛盾点が明確化され、不正・不当請求の内容、点数、金額と共に、監査担当者の意見も記載されます。

患者個別調書への弁明の記載

監査では、被監査者に対し、当該患者のカルテとレセプトを示しながら、1枚毎に説明がされ、その内容に誤りがないかの確認を求められ、患者別調書に対する弁明の記載と署名が求められます。弁明欄は小さいため、欄内に収まらない場合は欄外や裏面に記載することも可能です。患者個別調書の内容や金額には誤記がされることも多く、慎重にチェックする必要があります。また、誤った内容が記載されている場合には、その理由について弁明欄に十分な記載をすることが重要です。

 

3 監査後の手続について

行政上の措置

監査の後には、不正又は不当の事案の内容により、以下の❶~❸の処分が下されます(指導要綱)。

 

❶ 取消処分(以下のいずれかの1つに該当するとき。以下❷、❸について同じ)

  • 故意に不正又は不当な診療を行ったもの。
  • 故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの。
  • 重大な過失により、不正又は不当な診療をしばしば行ったもの。
  • 重大な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったもの

(※「しばしば」とは、1回の監査において件数からみてしばしば事故のあった場合及び1回の監査における事故がしばしばなくとも監査を受けた際の事故がその後数回の監査にあって同様の事故が改められない場合をいいます。)

❷ 戒告

  • 重大な過失により、不正又は不当な診療を行ったもの。
  • 重大な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの。
  • 軽微な過失により、不正又は不当な診療をしばしば行ったもの。
  • 軽微な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったもの。

❸ 注意

  • 軽微な過失により、不正又は不当な診療を行ったもの。
  • 軽微な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの。

 

取消処分(❶)について

例えば、先日も、千葉県野田市にある救急病院が勤務する看護師の人数を水増しし、5億円を不正に請求していたとして関東信越厚生局から取消処分を下されているとの報道がなされています。

https://www3.nhk.or.jp/lnews/chiba/20240930/1080024349.html)。

 

厚労省が公表している、令和4年度における処分の状況は次のとおりです

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000188884_00004.html)。

 

保険医療機関

 

18件  (対前年度比 8件減)

(内訳)

指定取消

6件  (対前年度比 3件減)

 

指定取消相当

12件  (対前年度比 5件減)

保険医等

 

14人  (対前年度比 2人減)

(内訳)

登録取消

11人  (対前年度比 2人減)

 

登録取消相当

3人  (対前年度比 増減なし)

同年度の監査件数が52件ですので、およそ監査3件につき1件に取消処分が下されていることとなります。

厚労省は、取消理由が架空請求、付増請求、振替請求、二重請求、その他の請求など不正の内容が多岐にわたっていることも公表しております。また、指導、監査が実施される端緒としては、保険者、医療機関従事者、医療費通知に基づく被保険者等からの情報提供が12件と指定取消処分(指定取消相当を含む)の件数の大半を占めています。中でも医療機関等の従事者からの情報提供がされるケースが多いことから、普段の診療において、従業員と開設者、管理者間の人間関係を築き、労働条件の適正化を行う、内部通報制度を整備し、従業員から違法な通報がされないように従業員教育等の情報管理を行うことが重要といえます。

    

取消処分に前置される手続

取消処分は、3つの処分の中で最も重いものであり、その不正の悪質性が高いものとなります。取消処分がされる場合には、次の⑴~⑶の手続が行われます。

 

⑴ 本省内議

監査終了後、速やかに監査結果は整理され、内議書が内部的に作成されます。内議は厚生労働省保険局長にされ、内議結果は同局長から通知されます。

 

⑵ 聴聞

行政庁が不利益処分をしようとするときに聴聞が義務付けられることから(行政手続法13条)、取消処分に関する聴聞が実施されます。

聴聞では、不利益を受ける者(保健医療機関等)が口頭で自己弁護、防御の主張を行います。

聴聞期日が指定された場合、保険医療機関等には、当局より、「聴聞通知書」が事前に送付されます。聴聞通知書には、期日までに不利益処分の内容及び不利益処分を行なう根拠条文、不利益処分を行なう原因となる事実、聴聞の場所及び日時、聴聞に関する事務を取扱う組織及び所在地が記載されます。

聴聞手続に欠席した場合には、聴聞手続が終結されますので(行政手続法23条)、取消処分を争う場合には、防御の機会を喪わないように出席する必要があります。

聴聞では、個別指導及び監査とは異なり、弁護士を代理人として選任した場合、弁護士は防御の弁論を行うことなど一切の活動を制限なく行うことができますので(行政手続法16条1項及び同条2項)、取消処分を争う場合には弁護士を選任し、監査結果の誤りを指摘し、取消処分の不当性に関する意見書の作成を行い、弁護士による出頭がされるべきと考えます。

戒告、注意については、不利益処分に当たらず聴聞は行われません。

 

⑶ 地方医療協議会への諮問

厚生労働大臣は取消処分について地方社会保険医療協議会へ諮問します。地方社会保険医療協議会は審議し、答申します。

 

取消処分の公表

地方厚生(支)局長は、監査の結果、取消処分を行ったときは、「保険医療機関及び保険薬局の指定並びに保険医及び保険薬剤師の登録に関する政令」(昭和 32年政令第 87号)第 2条(同令第 2条の 2において準用する場合を含む。)又は第 9条の規定に基づき、速やかにその旨を公示するとされています。公表は患者の権利を守ることを目的とし、公表される内容は、行政処分の内容(保健医療機関等の名称、所在地、開設者、指定取消年月日、保険医の氏名、年齢、登録取消年月日、根拠となる法律等)、行政処分に至った経緯、取消処分の主な理由、診療報酬の不正請求件数、金額等です。

なお、地方厚生(支)局及び都道府県は、戒告又は注意の行政上の措置については、保険者団体、都道府県医師会等及び支払基金等に対し、その旨が連絡されますが、公示はされません。

 

取消処分に伴う経済的措置

地方厚生(支)局及び都道府県は、監査の結果、診療内容又は診療報酬の請求に関し不正又は不当の事実が認められ、これに係る返還金が生じた場合には、該当する保険者に対し、医療機関等の名称、返還金額等必要な事項を通知します。そして、保険者から支払基金等に連絡させ、当該医療機関等に支払うべき診療報酬からこれを控除させるようにします。

また、地方厚生(支)局及び都道府県は、患者において支払う一部負担金に過払いが生じている場合には、監査対象となった医療機関等に対して、当該一部負担金等を当該被保険者等に返還するよう指導します。

返還対象となるのは、原則として 監査の開始前5年間の不正又は不当請求です。これは、診療録の保存期間が5年間とされていることによります(療担規則9条、療養の完結の日から5年間)。

上記返還対象期間において、不正請求については1.4倍の返還が必要であり、不当請求については実額の返還が必要です。

返還に際しては、当該保険医療機関において全患者についての自主的なチェックを求められ、返還同意書等を作成し、保険者又は支払基金等への通知、連絡がされます。

 

再指定、再登録について

保険医療機関等が取消処分を受け、5年を経過しない場合等においては、健康保険法第65条第 3項の規定に基づき、その指定を拒むことができることとなっています。ただし、取消処分を受けた医療機関の機能、事案の内容等を総合的に勘案し、地域医療の確保を図るため特に必要があると認められる場合であって、診療内容又は診療報酬の請求に係る不正又は著しい不当に関わった診療科が、相当の期間保険診療を行わない場合については、取消処分と同時に又は一定期間経過後に当該医療機関を保険医療機関として指定することができることとなっています(指導大綱)。実務上は、一律に5年間、指定・登録ができないこととなります。

 

4 不服申立て取消訴訟について

取消処分に対して不服がある場合、処分を受けた保険医療機関等は、原則として、処分があったことを知った日の翌日から3か月以内に、厚生労働省に対して審査請求をすることができます(行政不服審査法2条)。また、裁判所に対して、処分があることを知った日から6か月を経過しておらず、処分から1年を経過していないときは、処分取消しを求め行政訴訟を提起することができます(行政事件訴訟法14条1項、同2項)。

取消処分に係る取消訴訟については、次回、ご紹介いたします。

以上

 

【医療法務】保険医療機関への個別指導と監査の対策ガイド(個別指導)

 

今回は、医療機関に対する個別指導・監査がテーマになります。

保険医療機関に所属する保険医にとっては、ある日突然、厚生局から個別指導を実施する旨通知が来た場合には、個別指導とは何なのか、その後にどのような手続や処分が待ち受けているかについて大いに不安になります。個別指導、監査に分けて、手続の概要についてご説明いたします。

1 個別指導、監査とは

保険診療の法令

健康保険法52条は,療養の給付等を同法における保険給付であると定め,同法63条1項は,被保険者の疾病又は負傷に関しては,①診察,②薬剤又は治療材料の支給,③処置,手術その他の治療等の療養の給付を行うと定める。そして,同条3項は,被保険者が上記療養の給付を受けるためには,厚生労働大臣(同法204条1項,同法施行令63条1項11号により,その1権限は地方社会保険事務局長に委任されている。)の指定を受けた病院若しくは診療所である保険医療機関等において,診察等を受けるものと定めており,同法64条は,保険医療機関において,健康保険の診療に従事する医師若しくは歯科医師は,厚生労働大臣の登録を受けた医師若しくは歯科医師(以下「保険医」という。)でなければならないと定めている。保険診療における保健医療機関、保険医の義務

保険医療機関、保険医の義務

保険診療は、健康保険法等に基づき、保険者(健康保険組合等)と保険医療機関との間の公法上の契約であると解されており、保険医療機関及び保険医は、保険診療を行うために、保険医療機関としての「指定」、保険医としての「登録」を受けた上で、保険診療の提供に際し、健康保険法70条1項及び72条1項に基づく厚生労働省令である「保険医療機関及び保険医療養担当規則」(以下「療担規則」という。)を遵守する義務を負っています。

診療報酬が支払われる条件

保健医療機関は、下記の条件が満たされている場合に限り、診療報酬を請求することができます(「保険診療の理解のために【医科】(令和6年度)」(厚生労働省保険局医療課医療指導監査室))。

そして、療担規則には、保険診療の禁止事項として、無診察治療の禁止、自己の保険医療機関において診療を受けるように誘引する目的での経済上の利益提供の禁止、特殊療法・研究的診療の禁止、健康診断を療養の給付の対象とすることの禁止、過剰診療の禁止、特定の保険薬局への患者の誘導の禁止、特定の保険薬局からの財産上の利益の収受の禁止等が定められているとともに、診療報酬に関し、療養の給付に関する費用の額については、「医科診療報酬点数表」(健康保険法76条2項に基づき定められた「診療報酬の算定方法」(平成20年厚生労働省告示第59号)別表第1)による要件を満たした適正な請求を行う義務が保険医療機関と保険医に課されています。

指導、監査について

厚生労働大臣による指導は、健康保険法73条を根拠として、保険医療機関及び保険薬局に対し、療担規則等に定められている保険診療の取扱い、診療報酬の請求等について周知徹底することを目的として実施されます。指導には、以下の種類があります。

  • 集団指導

保険診療の取扱い、診療報酬請求事務、診療報酬改定内容、過去の指導事例等の説明を講習等の方式により行う指導

  • 集団的個別指導

診療報酬請求明細書の1件当たりの平均点数が高い保険医療機関等に対する指導

  • 新規個別指導

新規の指定から半年から1年以内の保健医療機関等に対し、教育的に行われる指導

  • 通常の個別指導

三者からの情報提供や集団的個別指導等によって指導が必要と認められた保険医療機関等に対する指導。地方厚生局及び都道府県が共同で、個別の保険医療機関等に対し面接懇談方式によって行う。本稿で単に「指導」と呼称する場合には、この個別指導をさすものとします。

一方、監査とは、個別指導等の結果、不正又は著しい不当が疑われる保険医療機関等に対し、健康保険法78条1項(保険医療機関又は保険薬局の報告等)所定の質問検査権に基づき行われる手続です。

 

厚労省作成資料)

指導、監査の違いとは

指導はあくまでも行政指導であり、「懇切丁寧に行う」(指導要領)とされている手続ですが、監査は、保険医療機関に対する行政措置(取消処分、戒告、注意)を念頭とするものです。

それゆえ、指導は将来に向けた改善点の指摘がされることが主眼となる手続ですが、監査は過去の事実の把握(真実の究明)を目的とする点で手続の趣旨において大きな違いがあります。保健医療機関等は、監査において、取消処分を受けないために、当局からの診療録等の提示に応じる必要があります(健康保険法78条1項、同法80条4号)。

2 通常の個別指導の実際

⑴ 通常の個別指導の概要

通常の個別指導は、保健医療機関に対し約1月前に通知が発せられた後、上記のとおり面接懇談方式で行われます。個別指導では、原則として、指導月以前の連続した2か月分のレセプト(30名分、通常、指導日の1週間前に20名、指導日の前日の正午までに10名が指定されます。)の対象患者に係る診療録や関係資料に基づき、地方厚生局及び都道府県の指導担当者(指導医療官、事務官等)から、保健医療機関側の出席者(保険医療機関等の開設者、管理者、保険医、看護師、その他医療従事者)に対し、予め準備された質問がされます。所要時間(指導時間)は、病院について3時間、診療所及び薬局について2時間が原則とされ、開催される場所は、病院では病院内において、診療所及び薬局については事務所等の会議室で実施されます。正当な理由なく個別指導を拒否した場合には、監査が実施されることとなります。

 

指導側の準備と保健医療機関の対策

当局の指導担当者は、指導日までに、①保健医療機関のホームページや求人情報等に不適切な情報がないか、②過去の指導における指摘事項と措置内容の確認、③会計検査院や医療法の立入検査がされていればその結果、④公益財団法人医療機能評価機構による病院機能評価情報の確認、⑤施設基準の届出の確認、⑥同一開設者による医療機関の有無、⑦医師会における評判等の情報を収集し、これらを基として保健医療機関の把握を行っています。そして、これらの情報と第三者から提供を受けた情報とを総合的に考慮して、対象とすべき患者を選定します。対象患者の選定(どの患者のレセプトを対象とするか)は、当該患者が、①当該保険医療機関等における代表的な診療内容を反映しているか、②複数の診療科について網羅しているか、③算定要件のある項目(医学管理料等)が含まれているか、④情報提供と一致する内容のレセプトが含まれているか、などを基準になされます。

また、当局においては、個別指導の実施前に、対象患者のレセプトにつき、「医科点数表の解釈」や疑義解釈の事務連絡等によって算定項目の要件確認を行い、届出られている施設基準との齟齬、不適切な傾向、症状詳記とレセプトとの矛盾、過去の指導における指摘事項等に留意し、診療録等に要件に該当する記載がされているかをチェックします。

保健医療機関においては、当局の指定した対象患者や過去の指導等の内容について検討し、どの点に関する個別指導が実施されるのかを推測した上で、想定されるQ&Aを作成しておく必要があります。保健医療機関が個別指導において持参が義務付けられる資料としては、上記対象患者のカルテ類以外にも、医薬品の納入伝票、院内展示物、従業員のタイムカードや契約書等、種々のものがありますが、これらの内容によっても、当局が関心を持っている事項についての推認が可能となります。

個別指導においてされる質問事項

個別指導では、診療内容について、診断された傷病名の根拠所見の記録、摘要欄や症状詳記に記載された内容の記録、選択された治療の妥当性について確認がされるとともに、請求項目について、算定に必要な要件の記載、算定に必要な書類等について確認がされ、不明点の質問がされます。実際の指摘事項については、本項の末尾に記載した指導における指摘事項をご参照ください。

弁護士の帯同

個別指導には弁護士の帯同が許されています。弁護士が直接の答弁を行うことは禁止されているものの、弁護士の帯同によって個別指導が適切に進行することができます。監査に移行した場合には、保健医療機関の指定取消処分等の処分がされるリスクが生じてしまいますので、医学的にも法的にもアドバイス可能な医療法務弁護士に個別指導の対応についてアドバイスを受け、個別指導から監査に移行しないよう万全の対策を取ることが望ましいといえます。

指導の終了と監査への移行

指導が終了した際には、当局の指導担当者から口頭で指摘事項について講評がされ、後日、正式な指導結果が書面で通知されます。個別指導後の措置については、下記の4つの基本的考え方に留意して総合的に判断されます。

  • 診療が医学的、歯科医学的、薬学的に妥当適切に行われているか
  • 保険診療が健康保険法や療担規則をはじめとする保険診療の基本的ルールに則り、適切に行われているか
  • 「診療報酬の算定方法」等を遵守し、診療報酬の請求の根拠がその都度、診療録等に記録されているか
  • 保険診療及び診療報酬の請求について理解が得られているか

個別指導の判定には、㋐概ね妥当、㋑経過観察、㋒再指導があります。

個別指導中に診療内容又は診療報酬請求について明らかに不正又は著しい不当が疑われる場合は、指導は中止され、必要に応じて患者調査が実施された上で速やかに監査に移行されます。

不正請求とは

ここで「不正」とは、いわゆる詐欺、不法行為に当たるような悪質なものをいうとされ、「不当」とは、制度の目的から見て適当ではない、妥当性を欠いたものをいうとされています。例えば、診療内容の「不正」として、実際の診断名に基づく診療とは異なる不実の診療行為をなすこと(「肺結核と診断し、ストマイ、パスの併用療法を行うべき適応症に、ストマイの代りにビタミン剤の注射を行うこと。」など)をいうとされ(「社会保険医療担当者の監査について」(昭和29年12月28日保発第93号)、架空請求(実際に診療(調剤を含む。以下同じ。)を行っていない者につき診療をしたごとく請求すること。)、付増請求(診療行為の回数(日数)、数量、内容等を実際に行ったものより多く請求すること。)、振替請求(実際に行った診療内容を保険点数の高い他の診療内容に振り替えて請求すること。)、二重請求(自費診療を行って患者から費用を受領しているにもかかわらず、保険でも診療報酬を請求すること。)、及び、施設基準の要件を満たしていない請求や無診察投薬のような保険診療と認められないものに関する請求といったその他の類型があります。

不当請求とは

診療内容の「不当」としては、実質的に妥当を欠く診療行為をなすこと(「療養担当規程に定める診療方針又は医学通念にてらし、必要の限度を超え、又は適切若しくは合理的でない診療を行うこと。即ち、濃厚診療、過剰診療、過少診療等を行うこと。」)が例として挙げられます(上記昭和29年12月28日保発第93号)。

監査に移行させないことが重要

令和4年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況※についてみれば、保険医療機関に対して実施された個別指導が1505件に対し、監査が52件と、個別指導から監査に移行する事例は約3%に留まっており、個別指導で当局の指示に従い、適切な回答と適正な保険診療及び診療報酬に関する理解を示すことで、可及的に監査移行を防止することが重要であるといえます。

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000188884_00004.html

自主返還の手続

指導の結果通知の後、指導対象となったレセプトのうち、返還が生じるもの及び返還事項に係る全患者の指導月前1年分のレセプトについて、自主点検の上で返還が求められます。なお、施設基準の返還については、最大で5年分のレセプトが自主返還の対象となります。返還同意書等の必要な書類は、指導結果の通知後、診療所及び薬局は1か月後、病院は2か月後を期限として提出が求められ、当該書面が提出された後、保険者に通知がされます。なお、保険医療機関は、返還金の分割納付の申し出を審査支払機関又は各保険者に対して行うことができます。

指導における指摘事項

最後に、個別指導における主な指摘事項として、令和4年度に医科についてされたものを参考までに例示しておきます。

  • 施設基準関連・・・看護職員夜間配置加算
  • 医療情報システム関連・・・医療情報システムの安全管理に関するガイドラインの不遵守
  • 診療関連・・・診療録等の記載(療担規則様式第一号(二)の1及び同2の記載内容)、傷病名の記載及び診断根拠の記載、入院診療計画書の記載、各種加算(臨床研修病院入院診療加算、救急医療管理加算、急性期看護補助体制加算、認知症ケア加算等)の要件の有無、各種管理料(特定薬剤治療管理料、悪性腫瘍特異物質治療管理料、麻酔管理料等)の要件の有無、診療情報提供料の診療録への添付又は記載、在宅医療に係る訪問看護師指示料の患者同意の有無、在宅医療に係る各種管理料(在宅自己注射指導管理料、在宅酸素療法指導管理料、在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料等)の要件の有無、検査結果の診療録への添付・記録の有無、投薬・注射等についての適応外使用の有無、リハビリテーション前診察の有無、手術に関する同意書の有無、輸血の必要性等に係る説明文書の有無、
  • 薬剤部門関連・・・薬剤管理指導料についての要件の有無、薬剤情報提供料の要件の有無、治験に関する診療報酬明細書の記載
  • 看護、食事関連・・・看護職員の勤務時間、重症度、医療・看護必要度についての評価
  • 管理・請求事務関連・・・主傷病名と副傷病名の区別の有無、外来診療料の要件の有無、動脈血採取の要件の有無
  • 提示・届出関連・管理請求事務・・・看護配置の掲示の記載、施設基準に関する事項の掲示、保険医の異動に係る届出事項の変更の有無
  • 包括評価関連・・・診断群分類番号の記載、包括評価用診療報酬明細書の傷病情報欄の記載、入院時併存傷病名と入後発症傷病名の記載

 

上記をみても指摘事項は極めて多岐にわたっていることが分かりますが、やはり不正請求、不当請求に当たる診療報酬明細書の要件該当性が疑われるものについては十分に注意し、診療録上の記載がない違法状態が認められるとしても、実際には要件に合致した診療は実施されていたことについて真摯に回答するなど、対応を慎重に検討した上で個別指導に臨む必要があるといえます。

医療過誤の法的責任:医師が負う民事・刑事・行政責任とは?(特に刑事責任について)

 

医療過誤で医師が過失ある医療行為を行った場合に負うべき法的責任には、民事責任、刑事責任及び行政責任の三つの主要なカテゴリーがあります。これは、交通事故で責任を負うときと同様です。

医療過誤による医師の「民事責任」とは?

医師が医療過誤により民事責任を負うのは、主に不法行為又は契約上の債務不履行として損害賠償請求される場合です。患者や遺族は、医療機関や医師に対し損害賠償を請求することができます。この際、患者側は医師等の医療行為に注意義務違反(過失)が認められること、患者に損害が発生したこと及びこれらの間に因果関係が認められることを立証する必要があります。具体的な損害項目には、治療費、休業損害、通院交通費、入院雑費、付添看護費、逸失利益、慰謝料(傷害、後遺障害、死亡)、などが挙げられます。

医療過誤で医師が問われる「刑事責任」の具体例

⑴ 医師に対する刑事責任について

医療過誤に適用される刑罰

刑法211条は、「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。」と規定します。判例上、「業務」とは、「本来人が社会生活上の地位に基き反覆継続して行う行為であって、かつその行為は他人の生命身体等に危害を加える虞あるもの」とされ、また「人の生命・身体の危険を防止することを義務内容とする業務も含まれる」とされています。そのため、医師が業務上の過失(注意義務違反)によって因果関係ある傷害ないし死の結果が生じた場合、医師は上記罪に問われることとなります。

医療過誤の立件件数の推移

医師が刑事責任を問われるのは民事責任に比して極めて稀といえますが、その立件件数は時代によって大きく変動しています。過去のデータによると、年間立件数は平成11年にはわずか2件でしたが、平成17年には47件に増加してピークを迎え、その後減少を辿り、平成23年には0件となり、平成25年から平成28年は1~5件で推移しています(厚生労働省「医療行為と刑事責任」(図1参照)。

厚生労働省「医療行為と刑事責任」(中間報告)より抜粋)

厚生労働省「医療行為と刑事責任」(中間報告)より抜粋)

(図1 厚生労働省「医療行為と刑事責任」(中間報告)より抜粋)

 

医療過誤の立件件数の減少の理由は?

平成18年以降の立件数減少の背景には、医療事故に対する社会的な認識の変化に加え、医療技術の進歩、医療過誤を防止するための医療安全の取り組みが影響していると考えられますが、平成18年に医師が逮捕・起訴された福島県立大野病院をきっかけに、医療界から強い反発が巻き起こったこともあり、同事件も含めた複数の事件が強い影響を与え、司法において慎重な対応がとられるようになったともいえそうです。

 

※ 福島県大野病院事件

平成16年12月17日に帝王切開手術中に患者が死亡した事例について、執刀医、第一助手外科医及び麻酔科医に加え、病理医、看護師が取り調べを受け、捜査に協力していたにもかかわらず、外来中に執刀医が逮捕された事件です。福島地方裁判所は、平成20年8月20日、執刀医について癒着胎盤の剥離に際してのクーパーの使用に過失がない(結果回避義務が立証されていない。)として、無罪を言い渡し、同判決は確定しています。

 

⑵ どのような事例で医師に刑事責任が問われるのか

医師の刑事罰に対する不安

医療法務弁護士として、医師が患者からの訴えがあった際に不安を覚えて、起訴される可能性について問われることが多くあります。国民の健康のためを思い、日夜診療に励んでいる医療者にとって、突如、自らの行為が刑事罰が科される犯罪行為として評価されてしまう恐怖がいかほどのものかについては、良く分かります。それでは、どのような事例で医師に刑事責任は問われるのでしょうか。

まずは、実際にどのような場面で医師の診療行為に関する刑事責任が問われているのかの感覚を掴むため、末尾表1に事例をまとめましたのでご参考にしていただければと思います。

刑事裁判所の過失についての考え方

この点に関し、裁判所は、刑法211条の過失について、民事裁判と同様に「医療水準」、すなわち「当時のわが国の通常の医師あるいは平均的な医師の持つべき医学上の知識」を基準に、個別の医師の専門分野、能力、経験、所属する医療機関の特性等に沿った裁量を加味して、過失の有無を判断しているといえます。この判断基準は民事裁判と共通していますが、実際の裁判例についてみれば、民事と刑事で「過失あり」として認められる過失の程度は異なっており、刑事においてよりその程度は重い必要があります。簡潔にいうならば、刑事における過失の程度は、「明白な過失」であることが要求されているものがほとんどです。

有識者研究会の刑事医療過誤訴訟の過失についての分析

厚労省主導の有識者研究会(医療行為と刑事責任の研究会)は、平成31年3月29日の中間報告において、刑事責任を問われる事例の特徴につき、『「周囲の指摘や警告、院内のルール、当時の一般的な治療法等を無視し、あえて医学的な知見の裏付けのない行為に及ぼうとする心理」や「本来、行うべき行為をうっかりして行わないような心理」等を背景としていると考えられる因子を含む事例』であると分析しています。さらに、同研究会は、『「必要なリスクを取った医療行為の結果、患者が死亡したケース」について刑事裁判で有罪となった例は存在しなかった。』とも結論付けています。

過去の事例をみるに、確かに、上記研究会の解析に外れる事例はなさそうですが、例えば、罰金刑となった⑧裁判例で刑事責任が問われている事例のように上記有識者研究会の判断基準に沿わない事例もあり※、医師が責任を争わない場面等で医師の刑事責任が簡単に問われている場合がないとはいえないことに注意が必要です。

 

※ 骨髄穿刺の際に穿刺針が骨髄腔に侵入したかどうかは、術者の感覚で判断するほかなく、熟練した医師であっても、骨や骨髄の状態によっては判断が困難な場面があります。例えば、骨粗鬆症に罹患した高齢者に対する骨髄穿刺では、骨髄腔内に入った感触と胸骨を貫通した感触の区別は困難であるといえます。

医療過誤が刑事有責になる場合とは?

上記研究会の結論は、医師の行為を「無謀な医療」と「うっかりミス」の類型に分けて整理したものといえます。現実の事例をみても、概ね、上記類型に分けられるといえますが、この2つのいずれの類型においても、民事責任と異なり、過失の程度がひどく、被害結果が甚大な悪質な行為、ありていにいえば、『命を預かる医師として社会的に許容すべきではない』というべき場合に限定して刑事責任が問われていることになります。

医療過誤が刑事責任を問われるかの判断は難しい

前者の「無謀な医療」と評価される事例については、医学の進歩のために必要となる試行的な医療行為との境界が問題になり得るものの、一般的にその刑事責任の有無の判断は容易であるといえます。

一方で、後者の「うっかりミス」については、どの程度のミスをもって刑事責任が問われるのかについて、判断が難しい場面が多くあります。これは、「ミス」の類型としても、投薬、注射、麻酔、手技、手術、医療機器の操作・設定、診断又は他の医療者の管理等、極めて広範な類型が存在するとともに、患者の状態も各人によって大きく異なり、また、医療技術は日々発展しており、時代によって医療水準が変化することを理由とします。

刑事責任を問われないために必要な対応とは

医学や裁判例に通じていなければ刑事責任の有無の境界は困難とも思えますが、刑事責任が問われかねない行為については、行為後に迅速かつ適切にその危険性を把握し、過失の程度に関する調査を行うなどした上で、示談等の対応をとることで刑事責任を問われるリスクや、その量刑を軽減することができます。

⑶ 医師に刑事責任は問われるべきか

医師の刑事責任に対する意見

医師からは、医師の献身的努力によってはじめて現場の医療は支えられており、常に危険性を内包する医療行為に対し刑罰の適用がされるならば、医師が法的係争を恐れて困難な症例の患者に対する診療を止める、又は、過剰な検査を実施せざるを得ないという意見が多く聞かれます。また、医師の間では、医学・医療の専門知識を有していない司法や捜査機関によって医療過誤が判断・捜査されることへの拒否感も根強くあります。

 

上記医師の意見は、高度な知識経験を必要とする専門家である医師の心情としてよく理解できますし、刑事責任が問われる行為の範囲次第ではその意見は正しいというべきです。

しかしながら、社会秩序の維持のため、国家権力のみならず国民一般においても法の遵守が求められますから、法治国家である日本において、刑法の構成要件に該当し違法かつ有責な行為については刑罰が適用されるとの原則を曲げることは困難です。医師に刑事責任を問うべきではないとの意見を有する医師においては、現在は、裁判例において刑事有責となるような事例が、概ね『命を預かる医師として社会的に許容すべきではない』に限定されていることへの理解や、このように刑事有責となるべき医師の行為が想像以上に過失の程度が重いものであることの理解がない場合が多いようにも感じます。また、司法、捜査機関においても、医師の専門家意見を基に判断を行っており、医師でなければ医療過誤の判断を行うことができないと短絡的に考えることもできません。現に、医療以外の専門分野においても、民事、刑事の責任は問われるべきであることに争いはないのではないでしょうか。確かに、上記のとおり、略式起訴・略式命令によって原則から外れる有罪事件が認められることは事実であり、我々医療法務に携わる弁護士が医療関係者に対する教育・周知を行う必要性を感じているところです。

米国における医療過誤の刑事責任

なお、米国においては、医療過誤に対して刑事罰が科されることはあるものの、医師の治療法や医療機器の選択・利用に関する判断ミスについては刑事訴追されないことが伝統的な考えですが(State v. Hardister, 38 Ark. 605, 42 Am.Rep. 5 (1882))、医師の行動基準から著しく逸脱した事例については刑事責任が問われています(People v. Einaugler, 208 A.D. 2d 946, 618 N.Y.S.2d 414 (N.Y. App. Div. 1994).)。また、医師の技術不足については、「重大な能力不足、重大な不注意、あるいは患者の安全に対する刑事的無関心を示す場合に刑事過失が認められ、これは医学や外科学についての重大な無知、また治療法の効果に対する重大な無知から生じ得るが、具体的には、治療法の選択に際しての重大な過失、器具の使用に関する適切な技術不足、あるいは患者に対する薬剤使用についての適切な指示をしなかった場合に認められる」(Hampton v. State, 50 Fla. 55, 39 So. 421 (1905).高アンナ、日米における刑事医療過誤:過失の内容及び判断基準.北法. 2013, 403-405)とされ、重大な過失について刑事有責となる事例は散見されています。

米国における刑事裁判上の過失については、学説上、「刑事過失が認められるには、客観的注意判断基準からの重大な逸脱の客観的存在が必要であり、かつ、非難可能な心理状態が必要」とされ、「一般に、単純ミスは誰でも犯し得るミスであるから、犯罪とはならないとされてきた」(只木誠、日本における医療過誤と刑事責任.日本法学. 2016, 227)と整理され、又は、「①過去の経験を軽視したために、危険状況を回避できなかった場合、②迅速に危険を抑えるべきであるのに、患者の状態を軽視した場合、③医師に堕落した動機が見られる場合、④医師の重大な技術不足の場合、に医師の刑事責任が認められる傾向がある。」(前記高アンナ, 404)などと整理されており、日本における判断基準と大きく異なるところはないと考えられます。

医療過誤における「行政責任」とは?医師法による処分

⑴ 医療過誤に対する行政処分はどのように判断されるのか?

医事に関し犯罪又は不正の行為のあった者については、医師法上の行政処分(①戒告、②3年以内の医業の停止及び③免許の取消し、のいずれか)の対象になり得ます(医師法7条1項、4条4号)。もっとも、当該処分にあたっては、「あらかじめ、医道審議会の意見を聴かなければならない」とされており(同法7条3項)、医道審議会が公表するガイドラインにおいては、「処分内容の決定にあたっては、司法における刑事処分の量刑や刑の執行が猶予されたか否かといった判決内容を参考にすることを基本とし、その上で、医師、歯科医師に求められる倫理に反する行為と判断される場合は、これを考慮して厳しく判断することとする。」とされています(医道審議会医道分科会「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」2頁)。そのため、基本的には、医師法上の処分の判断は、診療報酬の不正請求などの事例を除くと刑事処分の判断と連動する形でなされるのが実情です(例外として、東京慈恵会医科大学附属青戸病院事件)。

⑵ 行政処分についての問題点

行政処分に関する上記現状は、刑事有責とすべきではないものの、民事上の過失は認めらえる事案について、本来なされるべき行政処分が医師にされることなく、原因究明、再発防止がされない懸念があります。これは、上述のとおり、限定した事案に限定して刑事責任が問われている現実に鑑みますと無視することができない重要な問題であると考えられ、今後の行政における調査権限の見直しも含めた検討が必要であると考えます。

まとめ

以上のように、医療過誤によって医師が負う法的責任は多岐にわたり、その対応には高度な法的知識と医学的知識が必要です。当初の対応が最終的な処分に大きな影響を与えることが多く、早めに専門家にご相談されることをおすすめいたします。

 

 

(表1 医師の刑事責任に関する裁判例

 

無罪、不起訴

 

事件

量刑

事案

判示理由等

東京地裁平14(わ)第2520号

業務上過失致死被告事件(東京地判H17.11.30)

 

【無罪】

循環器小児外科医である被告人が、心房中隔欠損症及び肺動脈弁狭窄症の患者に対する根治術の際、人工心肺装置を予定されていた落差脱血法から陰圧吸引補助脱血法に独自の判断で変更したことよって患者を脳循環不全の脳障害によって死亡させたとして起訴された事案。

本件事故の原因は人工心肺装置に取り付けられたガスフィルターが水滴等の吸着により閉塞したことにあり、被告人には上記原因による死亡事故発生の機序について予見可能性がないとして、被告人の過失が否定された。

東京地裁平13(ワ)第14689号

損害賠償請求事件(東京地判H18.2.23 判タ1242号245頁)

【手技上の過誤】

【不起訴処分】

外科医である被疑者が、食道がんを有する66歳の患者に対して、食道がんの根治術を行う際に、メス操作を誤って右総頚動脈を損傷させて失血死により死亡させた事案。

本事案は民事裁判であるところ、民事裁判所は、頸部の創傷等を根拠に、メス操作に関する手技上の過失を認定している。

名古屋地裁平15(わ)第3061号

業務上過失致死被告事件(名古屋地判H19.2.27 判タ1296号308頁)

 

【無罪】

産婦人科医である被告人が、妊娠37週で胎児に徐脈傾向がみられる患者に対して、急速遂娩法を施し、子宮頚管裂傷が生じたにもかかわらず子宮頚管裂傷を見落とし、失血性ショック状態に陥った患者に対して十分な輸液の措置を取らず、また、高次の病院に転院させなかった過失によって起訴された事案。

救命措置を行った医師の証言等によれば、子宮頚管裂が存在していたと認めるには合理的な疑いが残る。

また、出血に対応して輸液速度を上げており、被告人の輸液措置が不十分と認められる証拠はない。

本件では失血原因が不明であり、転院したとしても助かったかは合理的な疑いがあり転院義務違反も認められない。

福島地裁平18年(わ)第41号

業務上過失致死、医師法違反被告事件

福島県大野病院事件(福島地判H20.8.20)

 

【無罪】

産婦人科医である被告人が、帝王切開手術歴一回を有する全前置胎盤患者に対して、①過失により胎盤と子宮隔離の処置をして胎盤剥離面からの大量出血によって失血死させ、②このことを24時間以内に警察署に届け出なかったとして起訴された事案。

 

臨床に携わっている医師に医療措置上の行為義務を負わせ、その義務に反したものには刑罰を科す基準となり得る医学的準則は、当該科目の臨床に携わる医師が、当該場面に直面した場合に、ほとんどの者がその基準に従った医療措置を講じていると言える程度の、一般性あるいは通有性を具備したものでなければならない。なぜなら、このように解さなければ、臨床現場で行われている医療措置と一部の医学文献に記載されている内容に齟齬があるような場合に、臨床に携わる医師において、容易かつ迅速に治療法の選択ができなくなり、医療現場に混乱をもたらすことになるし、刑罰が科せられる基準が不明確となって、明確性の原則が損なわれることになるからである。

本件において、検察官が主張するような、癒着胎盤であると認識した以上、直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行することが本件当時の医学的準則であったと認めることはできないし、本件において、被告人に、具体的な危険性の高さ等を根拠に、胎盤剥離を中止すべき義務があったと認めることもできない。したがって、事実経過において認定した被告人による胎盤剥離の継続が注意義務に反することにはならない。

東京高裁平18(う)第1801号

業務上過失致死被告事件

 割りばし事件(東京高判H20.11.20 判タ1304号304頁)

 

【無罪】

 

比較的軽い患者を扱うことの多い第1次及び第2次救急の当直医をしていた被告人が、綿あめの割りばしがのどに刺さったとして運び込まれた幼児患者に対して、診察・治療を担当した際、刺さった割りばしが経静脈孔から小脳に嵌入したことを見落とし適切な処置を行わず死亡させたとして起訴された事案。

 

本件のような事案はこれまでに前例がなく、医師の間にも様々な死因の考察がありこれを特定することはできない。また、口腔内損傷に関する診察・治療に関する診療指針や診療標準は確立されておらず、軟口蓋に刺入した異物が頭蓋内に至る可能性は知られておらず、髄液漏や意識障害四肢麻痺も認められていなかった。そうであれば、被告人において割りばしの刺入による頭蓋内損傷の蓋然性を想定するのは極めて困難であり、被告人において割りばしの刺入による頭蓋内損傷の蓋然性を想定して、その点を意識した問診をするべき義務があるとはいい難い。また、搬入された状況を踏まえると仮に適切な処置をしていても延命できなかった可能性は十分にあり、因果関係も肯定できない。

 

罰金

 

事件

量刑

事案

判示理由等

阪高裁昭53(う)第1292号

【手技上の過誤】

業務上過失致死被告事件(大阪高判S58.2.22 判タ501号232号)

【罰金5万円】

整形外科医である被告人が、陳旧性むちうち症の患者に対して、キシロカイン混合液の頸部硬膜外注射を実施した際に、呼吸停止及び心臓機能停止等を認め、これらにより脳死に伴う肺炎によって死亡させたとして起訴された事案。

約3分から5分以内に人工呼吸と心臓マッサージが看護婦と連携して適切に行わなければならないのに、本事例では、心臓停止が推定される時点から心臓マッサージによって血流の十分な回復まで少なくとも6分30秒を要している事実が認められるから、被告人は看護婦に対して事前に適切な指示をする義務や、予め局所麻酔剤反応に対処できるように準備する義務、反応が発がんした場合は適切な対処をすべき義務があるがいずれも怠ったといえる。

東京高裁平14(う)第345号

業務上過失傷害被告事件、横浜市立大学事件(東京高判H15.3.25 判タ1087号296号)

【チーム医療】

【執刀医、看護師、麻酔科医それぞれについて罰金50万円】

横浜市立大学医学部附属病院において、心臓手術が予定されていた患者と肺手術が予定されていた患者が取り違えられて手術がされ、それぞれについて全治約5週間及び全治2週間の傷害を負わせた事案。

患者の同一性確認は、手術すべき患者に適切な医療行為を施すための大前提であり、手術に関与する医師、看護婦らの初歩的、基本的な注意義務であり、それは、手術に関与する看護婦、医師全員がそれぞれの役割を遂行する中で行うべき義務であり手術に関与する看護婦、医師全員がそれぞれの役割を遂行する中で行うべき義務である。

麻酔医は、患者に麻酔を導入し、手術中の患者の全身状態を管理する者であり、麻酔導入時に執刀医や主治医らの在室の有無を問わず、麻酔医としての立場で、麻酔導入前に患者確認を尽くす注意義務があり、麻酔導入後も、その状況に応じて患者の同一性に注意を払う注意義務がある。

執刀医は、主治医を兼ねているかどうかにかかわらず、手術における最高かつ最終の責任者として、手術開始前、すなわち、麻酔導入前において、当該患者がその手術を行う患者であるかどうかの同一性を確認する義務を負う。

不明

【手技上の過失】

【罰金40万円】

27歳の医師が、高齢患者に対し、骨髄検査のため、胸骨腸骨穿刺針を用いて胸骨骨髄穿刺による骨髄液採取術を行うに際し穿刺針の長さに十分注意しないで胸骨穿刺を行い、骨髄液が採取できる胸骨骨髄まで穿刺針が達していたのに、さらに深く体内に刺入した結果、同穿刺針の内針で患者の胸部裏面(ママ)を穿通・上行大動脈を穿刺して出血させ、よって、同月18日午後8時28分ころ、胸部上行大動脈穿刺損傷による出血性ショックにより死亡させた事案。

不明(略式命令(100万円いかの罰金刑で済む事件について、当事者が争っていない場合に簡易裁判所で公判を開かず出される決定)で左記判断がされている。

さいたま地裁平26(わ)第350号

業務上過失致死被告事件(さいたま地判H26.10.10)

歯科医師

【罰金80万円】

歯科医である被告人が、2歳の女児である患者に対して、歯科治療中、ロールワッテを固定する措置を取らずに患者の口腔内に落下させ、窒息死させ、落下防止措置を講じなかった過失により起訴された事案。

本件において、ロールワッテを固定せずに漫然と治療を継続することは、当時の被害者の状況に照らし、ロールワッテの口腔内落下による気道閉塞という事態を招きかねない危険な行為であり、被告人としては、その危険を回避するため、間断なく指でロールワッテを的確に押さえるなどして、その口腔内への落下を防止すべき業務上の注意義務があったというべきである。

 

禁固懲役+執行猶予

 

事件

量刑

事案

判示理由等

東京地裁昭62(わ)第552号

業務上過失致死被告事件(東京地判S62.6.10 判タ644号234頁)

【術式選択の過誤等】

 

【禁固1年2月、執行猶予3年】

 

産婦人科医である被告人が、妊娠中期(5か月以上7か月以下)の患者に対して、中絶手術をした際、妊娠月数を4か月と誤診したため、妊娠中期の患者に対して採るべきではない胎盤鉗子等を用いた中絶術を行い、同患者を失血死させたことについて診察、手術、その後の対処に過失があるとして起訴された事案。

被告人にはいずれの過失も認められ、特に胎盤鉗子等を用いた中絶術を採用したことに重大な過失があり、また、重畳的過失から犯情は重い。

もっとも、5760万円を示談金として支払っており、医師としての信頼を失い経営困難となるという社会的制裁を受けていること、今後は別の診療科目に従事することを制約していること、反省していること、長年医師として業務に従事していたこと、扶養すべき妻子がいることを考慮して執行猶予が相当。

新潟地裁平15(わ)第17号

業務上過失致死被告事件(新潟地判H15.3.28)

【過剰投与】

 

【禁固1年、執行猶予3年】

整形外科医である被告人が、高齢の上拡張型心筋症の持病のある左膝関節全置換手術後の患者に対し、急性循環不全改善剤を過剰投与して、過量点滴による急性肺水腫によって死亡させたとして起訴された事案。

 

高齢の上、拡張型心筋症の持病がある被害者に上記手術を実施し、その手術の実施自体等に相当の問題があることを認識していたのであるから、その手術中の同女の容態等の管理については勿論のこと、その術後の心機能の管理等に万全の措置を期すべき。被告人は、手術後の被害者の血圧及び脈拍が不安定な状態にあったためプレドパを多量かつ継続して使用したというが、手術後の被害者の血圧は正常値に比べると高めであったのであるから、かくも多量のプレドパを長時間にわたり使用する必要性があったのか疑問である上、その使用量の余りの多さから看護婦や薬剤師からプレドパの使用量としては多すぎるのではないかとの指摘を再三受けながら、その指摘を無視して、その使用量を十分に確認することなく、他の医師からは医学の常識を逸脱しているとの指摘される程の通常使用量の約9倍もの大量にその点滴を続行したため、ついに被害者を死亡させるに至ったものであり、被告人の業務上過失の程度は高く、かつ、その態様も悪質である。もっとも、異変に気付いた際には同僚医師に助けをもとめたことや、示談金1800万円ほど支払っていること、減給処分や行政処分を受けること、前科前歴がないこと、更生を誓っており家族が協力的であることから執行猶予が相当。

東京地裁平14(わ)第856号

業務上過失致死被告事件(東京地判H16.5.14)

【誤認切除】

 

【禁固1年、執行猶予3年】

外科医師である被告らが、患者に対して胆嚢摘出術を行った際、胆管損傷の危険性が高かったにもかかわらず、術中胆道造影を行わず閉腹して手術を終え、これに引き続いた術後管理の際も、胆汁がドレーンから排除されてると軽信し、胆管損傷の有無や胆汁性腹膜炎の発生の有無を感知するための適切な処置を行わないまま漫然と経過観察をして、汎発性胆汁性腹膜炎に起因する多臓器不全によって同患者を死亡させ起訴された事案。

自分たちの技量を過信して上記各注意義務を全く尽くそうとしなかった被告人両名の過失の程度は重大であり、人の生命身体を預かる医師としてあるまじき診療態度であったというべきである。

本件では患者は36歳で結婚をしたばかりにもかかわらず未来を奪われ、その妻や両親にも多大な苦痛を与え、被告人の後半における真摯な反省は認められないものの、誤った手術をしたことは認め、解決金として8000万円支払っていること、長年医療に従事したことから、執行猶予が相当。

高松地裁平14(わ)第115号

業務上過失致死被告事件(髙松地判H17.5.13)

【術式選択の過誤】

【懲役1年8月、執行猶予3年】

外科医である被告人は、患者に対して、必要がないにもかかわらず、ステント留置術を実施し、十二指腸に穿孔を生じさせ、その後の緊急開腹手術でもステント留置術にこだわり、適切な処置をしなかった過失により、汎発性腹膜炎等によって死亡させたとして起訴された事案。

被告人は、小腸狭窄部の治療法として、食道用ステントを転用して留置する適応がないのに、ステント留置術を行い、また、ステント留置術中に十二指腸下行脚遠位端に穿孔が生じ、緊急手術になって同穿孔部を同定してからも、直ちに同部の縫合及び腹腔内洗浄をする等の救命措置を実施しないで、ステントを小腸狭窄部に留置することに固執して、ステント留置術を継続し、再度ステント挿入を試みた過失により、被害者を死亡させたと認定した。被告人には、上記の過失はあるものの、4100万円の示談金を支払っており、報道による一定の社会的制裁を受けていること、長年医師として社会貢献したことを考慮して執行猶予が相当。

最高裁平16(あ)第385号

業務上過失致死被告事件(第一小決H17.11.15)

【過剰投与】

【チーム医療】

【禁固1年、執行猶予3年】

大学病院の耳鼻咽喉科長の医師である被告人が、同科担当医において、16歳の患者に対して、悪性腫瘍摘出手術後の抗がん剤治療を実施するにあたり文献を誤読して抗がん剤の投与計画の立案を誤り、抗がん剤を過剰投与するなどして死亡させた事案につき、同担当医に加え、被告人の刑事責任が問われた事案。

 

極めてまれな症例で被告人が同症例を取り扱ったことがないことから、被告人としては、自らも臨床例、文献、医薬品添付文書等を調査検討するなどし、VAC療法の適否とその用法・用量・副作用などについて把握した上で、抗がん剤の投与計画案の内容についても踏み込んで具体的に検討し、これに誤りがあれば是正すべき注意義務があったというべきところ、被告人は、これを怠り、投与計画の具体的内容を把握しその当否を検討することなく、VAC療法の選択の点のみに承認を与え、誤った投与計画を是正しなかった過失がある。

東京地裁平23(わ)第2213号

業務上過失致死被告事件(東京地判H25.3.4)

【手技上の過誤】

歯科医師

【禁固1年6月、執行猶予3年】

歯科医である被告人が、70歳の患者に対して、歯科インプラント手術を実施する際に、ドリルによってオトガイ下動脈を損傷させ、血種による気道閉鎖を生じさせ死亡させたことについて過失があるとして起訴された事案。

下顎骨舌側皮質骨を意図的に穿孔し、その穿孔部を利用してインプラント体を固定する術式は、一般的には用いられていないものであって、被告人自身もそのことを認識した上で、独自の考えに基づいて採用していたのであるから、そのような術式を採用するに当たっては、その危険性等を十分に調査検討するべきである。被告人には、手術に当たり、オトガイ下動脈等の血管を損傷する危険性を認識した上で、これらの血管を損傷することのないよう、ドリルを挿入する角度及び深度を適切に調整して埋入窩を形成すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、右下顎第1小臼歯根尖下方の舌側皮質骨を穿孔してドリルを口腔底の軟組織に突出させた過失がある

被害者遺族に対して和解金5935万5137円を支払ったこと、前科がないこと、これまで長年診療を続けていたことを考慮して執行猶予が相当。

福岡地裁令2(わ)第1020号

業務上過失致死被告事件(福岡地判R4.3.25)

【過剰投与】

歯科医師

 

【禁固1年6月、執行猶予3年】

歯科医師の被告人が、リドカインを主成分とする歯科用局所麻酔剤を使用した当時2歳の小児の歯科治療につき、業務上の注意義務を怠り、急性リドカイン中毒に基づく低酸素性脳症により死亡させた事案。

小児が低酸素性脳症に陥った原因は急性リドカイン中毒で、被告人において、十分な問診、視診及び触診又は機器による測定等によって小児が急性リドカイン中毒を含む偶発症に陥っている可能性があり、放置すれば死に至る可能性を認識し得た時点で、適切な処置を行っていれば小児の死を回避できたものであるから、業務上過失致死罪が成立するとし、本来助かったはずの幼い生命を失わせ、その過失は軽くはないが、被告人にとって判断を誤りやすい状況があったほか一般情状も考慮した。

大阪地裁令和6(わ)第1097号

業務上過失致死被告事件(大阪地判R6.4.15)

【手技上の過誤】

歯科医師

【禁固1年、執行猶予3年】

鼠径部から中心静脈カテーテルを挿入するに当たり、カテーテルを静脈内に適切に導入するため先に静脈内に挿入したガイドワイヤをカテーテル挿入後に抜去せず、また、その後もレントゲン写真に右心室付近から右頸静脈付近に遺残されたガイドワイヤの陰影が撮影されており、これを確認したにもかかわらず、ガイドワイヤを取り除くべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り患者を心タンポナーデで死亡させた事案。

中心静脈カテーテルを挿入するに当たり、カテーテルと一緒にガイドワイヤが血管内に迷入してしまわないように、カテーテルの尾部からガイドワイヤの尾部を出して確実に把持するとともに、カテーテル挿入後にこれを確実に抜去することが基本的な手技とされる。被告人には、カテーテル挿入時にガイドワイヤを確実に把持し、カテーテル挿入後にはこれを確実に抜去すべき義務があったといえ、これを怠った点に過失が認められる。

福岡地裁令2(わ)第1020号

業務上過失致死被告事件(福岡地判R4.3.25)

【過剰投与】

歯科医師

 

【禁固1年6月、執行猶予3年】

歯科医師の被告人が、リドカインを主成分とする歯科用局所麻酔剤を使用した当時2歳の小児の歯科治療につき、業務上の注意義務を怠り、急性リドカイン中毒に基づく低酸素性脳症により死亡させた事案。

小児が低酸素性脳症に陥った原因は急性リドカイン中毒で、被告人において、十分な問診、視診及び触診又は機器による測定等によって小児が急性リドカイン中毒を含む偶発症に陥っている可能性があり、放置すれば死に至る可能性を認識し得た時点で、適切な処置を行っていれば小児の死を回避できたものであるから、業務上過失致死罪が成立するとし、本来助かったはずの幼い生命を失わせ、その過失は軽くはないが、被告人にとって判断を誤りやすい状況があったほか一般情状も考慮した。

 

実刑

 

事件

量刑

事案

判示理由等

⑲ 

東京高裁昭39年(う)代表取締役2517号、業務上過失致死等被告事件(東京高判S40.6.3 判タ180号145頁)

実刑

【禁固1年10月】

 医師が進行性筋萎縮症等の6名の患者の脊髄外腔に人体に危険がないことの確証がない薬品を注入し無菌性髄膜炎を惹起させ3名を死に至らしめた行為につき起訴された事案。

安全性を肯定させるに足りる根拠があるとは認められないから、腰椎穿刺により患者の脊髄硬膜に損傷を生ぜしめながら、これを意に介さず、敢えて脊髄外腔に注入したことは重大な過失といわなければならない。

奈良地裁平22年(わ)第42号、業務上過失致死被告事件(奈良地判H24.6.22 判タ1406号363頁)

 

実刑

【禁固2年4月】 

医院長である被告人と医師であるA(捜査中に死亡)が、良性腫瘍のある患者に対して、肝臓がんであると誤診して、肝臓外科の経験がないにもかかわらず不十分な人員体制のまま手術を行い、ミスにより失血死させたことについて起訴された事案。

一般に、そのような部位の切除手術は、肝静脈損傷等による大出血の危険を伴う高度の専門性を有するもので、そのような切除手術を実施するには、肝臓外科医等の専門医が適切な手術方法によって実施するとともに、大出血等の急変に備えて手術中の患者の血圧脈拍等を管理し、迅速的確な止血処理が行えるようにするための十分な人員態勢を確保して実施すべきであるが、被告らは、肝臓外科の専門医ではない上、肝臓の切除手術の執刀経験は皆無であった。

肝臓の腫瘍が良性の肝血管腫と肝臓がんのいずれであるかの区別は、医学生でも学習する基本的な事項であり、医師である被告人及びCとしては、被害者に対して実施された各種検査結果から、本件腫瘍が摘出の必要のない肝血管腫であり、したがって本件手術をすべきでないことは容易に判断できた。

被告人は、軽率にもこれをがんと誤診したばかりか、手術に臨むにあたっては、カンファレンスを行うなどして、手術の必要性をはじめ、適切な手技選択等を十分検討すべきであったのに、何らこれらを行わず、本件手術の必要性に関する看護師らの進言にも耳を傾けず、輸血の準備もせず、不十分な人員態勢等のまま、被害者の生命に対する危険性の高い本件手術を実施した。

被告人が主導する立場であったこと、診察に対する姿勢に問題があること、遺族に対して慰謝の措置を講じてないこと、反省の態度がないこと、医療の信頼を揺るがしたことから責任は重く実刑相当。

 

エクソソーム・細胞外小胞の臨床応用:再生医療と美容医療における法規制等の実情

 

はじめに

近年、エクソソームを含む細胞外小胞(Extracellular vesicles: EV)が細胞間の情報伝達物質として重要な役割を果たしていることが明らかになり、様々な疾患に対する新たな治療方法の候補として、多数の基礎研究が行われ、臨床試験が加速的に実施されている段階にあります。

本邦においては、エクソソームが生きた細胞そのものを含まない、細胞断片にすぎないという特性から、エクソソームの基礎研究及び臨床応用についてどのような規制をすべきかが模索されています。

医療の中でも自由診療である美容領域においては、エクソソームの臨床使用が急速に拡大していることから、本稿では、エクソソームの臨床応用の実際と規制の現状についてご説明いたします。

エクソソーム・細胞外小胞について

まずは、エクソソームとは何かについてご説明いたします。

ヒト、植物、酵母等を組成するあらゆる細胞は、細胞膜の基本構造である脂質二重膜を有する小胞を、自らの細胞膜の一部を陥没又は突出させて物質を取り込む方法(エンドサイトーシス)により作成し、分泌しています。

そのような小胞は、総称して細胞外小胞(EV)と呼ばれ、EVはその産生起源や大きさから、エクソソーム、マイクロベシクル及びアポトーシス小体・小胞に分類されています。このうち、エクソソームは、エンドソームという細胞器官に由来する、約100nmの小胞です。

エクソソームを含むEV(以下、正確ではありませんが、分かりやすさの観点から総称して「エクソソーム」といいます。)は、細胞の内部に存在する多くのタンパク質、mRNA又はmicroRNA(miRNA)といった核酸、リピッドなど多様な生理活性物質を含んでおり、細胞間のシグナル伝達においてサイトカインなどのタンパク質と共に重要な役割を担っていることが明らかになりました。更に、エクソソームに含まれるmiRNAが他の細胞の遺伝子発現を調整する機能も担っていることが明らかになるに至り、一躍医学界でエクソソームが脚光を浴びることとなりました。

エクソソームは様々な細胞タイプから分泌され、その内容物は細胞の由来によって様々であることが知られています。また、培養細胞からも上清中にエクソソームが放出されますので、培養上清液には多数のエクソソームが含まれています。

エクソソームの基礎研究及び臨床応用

がん治療等へのエクソソームの応用

エクソソームについては、各種がんの悪性化に関与している事実や、診断のためのバイオマーカーとして利用することに関する研究成果が多く発表されております。中でも、各種がんが特異的に分泌するエクソソームを疾病検出・予後予測に利用する研究は、社会実装に向けた実証試験の段階に入っています。

また、神経変性疾患COPD、非アルコール性脂肪肝等の疾患、免疫、感染症等、あらゆる分野で基礎研究が活発に行われています。

再生医療におけるエクソソームの役割

これらに加えて、再生医療領域におけるエクソソームの臨床適用については、間葉系幹細胞を用いた細胞治療のパラクライン効果が移植した細胞由来のエクソソームによってもたらされていることを示唆する報告が複数されたことを機に注目されるようになりました。塞栓などの合併症のリスクのある、幹細胞を用いた治療を回避しつつ、エクソソームのみを投与することにより幹細胞治療を代替する治療方法が検討されるようになり、人工内耳手術後の神経保護、創傷治癒効果又は肝硬変に対する線維化改善効果等に関する臨床試験が開始又は検討されています。

上記研究以外にも、エクソソームが脂質二重膜を有する安定した性質を有することを利用して、特定の治療薬を内包しドラッグデリバリーシステム(DDS)の新たな担体として利用することも検討されています。

美容領域でのエクソソームの利用

美容業界では、エクソソームが肌の再生や修復に有効であるとして、多くのスキンケア製品や治療法(点滴、局所注射、鼻腔内噴霧等)にアンチエイジング目的に使用されています。エクソソームは肌細胞の成長を促進し、老化の遅延やしわの減少、肌のハリや弾力の向上、毛髪再生などに寄与するなどとうたわれています。

再生医療におけるエクソソームの使用と法規制

エクソソームに関する日本の法規制

再生医療に関しては、大まかには、使用される「製品」に関し定める薬機法と、「医療」について定める医師法、医療法又は再生医療等の安全性の確保等に関する法律(安全確保法)の遵守が主に問題になり得ます。

 

薬機法の規制の対象となる「再生医療等製品」は、①再生医療等に用いるために人又は動物の細胞に培養その他の加工を施したもの(細胞加工製品)と②人又は動物の疾病の治療に使用されることが目的とされている物のうち、人又は動物の細胞に導入され、これらの体内で発現する遺伝子を含有させたもの(遺伝子治療用製品)に分類されています(薬機法2条9項、施行令1条の2・別表第2)。上記のとおり、エクソソームは細胞そのものではない細胞断片であることから上記①には該当せず、また、エクソソームに遺伝子発現の調整機能が存在することが示唆されているものの、発現する遺伝子の特定も困難であることから上記②にも該当するとはいえません。よって、エクソソームは、上記「再生医療等製品」に当たるとは考えられておらず、その製造及び製造販売等に関し、現在のところ薬機法をはじめとする規制はされていません。

また、安全確保法の規制の対象となる「再生医療等」とは、「再生医療等技術」、すなわち①人の身体の構造又は機能の再建、修復又は形成、又は、②人の疾病の治療又は予防を目的とする医療技術であって、細胞加工物を用いる医療技術をいうところ(安全確保法2条2項)、エクソソームを用いた医療は細胞加工物を用いないことから、同法による規制もされていません。

この点については、厚労省において、安全確保法上の「再生医療等技術」の概念にエクソソームを含むべきかについての検討が行われています。その結果、厚労省のワーキンググループは、令和3年11月17日、ヒトへの投与物としての明確な定義づけが困難であることなどを理由として、これを用いた治療を「再生医療等技術」に含める必要は検討時点において不要であるとの結論を得ておりますが(令和3年11月17日付け「再生医療等安全性確保法の見直しに係るワーキンググループとりまとめ」)。なお、当該ワーキンググループの議論において、エクソソームそのものの安全性につき、ウイルスからの完全な分離ができないこと等原材料由来の病原性微生物のリスクを除けば、現在のところ強く懸念されるとは言えないといった結論が得られております。

 

しかしながら、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の「エクソソームを含む細胞外小胞(EV) を利用した治療用製剤に関する専門部会」による、エクソソーム の治療用製剤に関する品質・安全性等に関し公開した最終報告書(令和5年1月17日付け「エクソソームを含む細胞外小胞(EV)を利用した治療用製剤に関する報告書」)においては、エクソソームの起源となるセルバンクの構築とその品質特性解析や、エクソソームの製造・精製・品質特性解析、免疫原性・感染因子等に関し、その品質及び安全性の確保について詳細な留意事項を公表しております。

また、細胞外小胞研究者によって構成される日本細胞外小胞学会は、令和5年12月25日付けで「細胞外小胞を用いた医療行為に対する日本細胞外小胞学会の見解」と題し、エクソソームが精製されることなく臨床使用されている現状に懸念を示し、エクソソームを高純度に精製して製剤化し、GMPグレードの厳正な製造過程や品質管理を行い、医薬品として厳正な審査が行われるべきと提言しています(https://jsev.jp/docs/jsev_ev_treatment_2023122501.pdf)。

さらに、再生医療に関わる研究者等によって構成される一般社団法人日本再生医療学会は、令和3年3月10日付け「エクソソーム等の調整・治療に対する考え方」と題する提言において、エクソソームにおける、感染症伝播、免疫反応、有効性・品質の不均一性、好ましくない対内分布等の問題点を指摘し、薬機法又は安全確保法の品質管理・製造管理基準に準じた品質管理・製造管理の実施を求めております。また、同学会は、令和6年4月30日付け「細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版)を発出しました(https://www.jsrm.jp/news/news-14993/)。同ガイダンスには、①エクソソーム治療に際しては、医師・歯科医師においてエクソソームの使用に関する科学的妥当性と患者の安全確保に努めるべき、②エクソソームの品質管理・調整管理については再生医療等製品の品質管理・製造管理基準に準じて実施すべき、③エクソソーム療法に際しては有害事象発生時の原因究明のために検体等を保管すべき、又は、④エクソソーム調整物が有する特性及び効果について十分に検証がされるべき、などとして、原材料の調達から患者に対する使用までの全ての段階でリスクの特定と品質、有効性及び安全性が確保されることの重要性が提言されています。

これらの提言等からすれば、日本の主要学会ないし研究者は、エクソソームの発展が将来的に大いに期待されるものの、現状においてその臨床使用における安全性管理は不十分であり、患者の保護のためにより厳格に規制すべきとのスタンスであることが分かります。

米国及びEUでのエクソソームの規制

海外の規制をみても、米国においては、エクソソームを用いた未承認製品による有害事象の発生を受けて、これら製品を医薬品及び生物学的製剤に当たるとして法(the Public Health Service Act and the Federal Food Drug and Cosmetic Act)の対象として規制されることを明らかにしており(December 6, 2019通知)、EUにおいても同様に法令の規制対象としています。

これら各学会からの意見・提言又は海外における規制の動向に照らしますと、今後、日本においてもエクソソーム製品及び治療について法令によって規制される可能性が低くないというべきでしょう。

医師法上の懸念

さらに、エクソソームを用いた治療が医師以外の者によって実施される場合には、当該行為が医師法17条所定の医行為に該当しないかを検討する必要があります。同条は、「当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為」を医師以外の者が業として実施することを規制しており、上記治療の方法、作用、目的等の具体的状況によって判断されることとなります。

薬機法上の広告規制

加えて、薬機法は医薬品等適正広告基準等によって厳格な広告規制を定めており、広告においてエクソソームについて医薬品的な効能効果の暗示がされた場合には、医薬品的な効能効果を標榜しているものとみなされ、製品が薬機法上の医薬品に該当すると判断されることとなります。また、広告をはじめとする表示については、景表法上、優良誤認表示に該当しないかのチェックも必要となります。

まとめ

エクソソームは、医療において革新的な新規治療法となり得る可能性を秘めた重要な物質として注目されていますが、その品質の多様性を原因とする有効性・安全性における不透明性が拭えない状況にあります。現在、法令による規制はされていないものの、最新の研究成果や合併症の発生の有無、そして、これらを受けた規制の変化に関する動向に着目する必要があります。

参考文献(文中で引用したもの以外)

  • Raposo et al., J. Exp. Med., 1996183(3), 1161.
  • Valadi et al., Nat. Cell Biol., 20079(6), 654.

ご挨拶

はじめまして、吉岡正豊です。

私は、循環器内科医として臨床に従事しながら、TMI総合法律事務所のパートナー弁護士として、10年に及ぶ裁判官としての経験も踏まえ、医療分野に特化した法律実務に取り組んでまいりました。特に医療ヘルスケアに関わる企業や医療機関、また患者の皆様に対するリーガルサービスを提供してきた経験をもとに、より広く、医療法務の知識と情報を共有する場として、このブログ「Medical and Legal Branch(医療法務を学ぼう!)」を立ち上げました。

 

医療法務に特化したリーガルサービス

医療は、人々の健康と生命を守る非常に重要な分野であり、同時に高度な専門知識と技術が求められる分野です。そのため、医療業界には法令等が多く定められ、法的な問題が複雑に絡み合うことも少なくありません。例えば、医療機関における医療過誤紛争や医療、医薬品の業法規制(レギュレーション)、さらには個人情報に係る規制など、多岐にわたる課題が存在します。私は、弁護士としてこうした問題を専門的に取り扱うことで、医療機関やヘルスケア企業の法務リスク管理や医療法務顧問サービスを通じて、安全で信頼される医療サービスの提供を支援していくことを目指しています。

 

このブログでは、医療法務に関する最新のトピックや実務に役立つ知識、ケーススタディを取り上げ、法的な視点から医療機関やヘルスケア業界をサポートできればと考えています。また、日々の業務で感じる課題や問題点を分かりやすく共有することで、医療機関や企業だけでなく、医療従事者や一般の方々にも役立つ情報を発信してまいります。

 

読者の皆様からのご質問やご意見も大歓迎です。医療法務に関するお悩みや疑問点がありましたら、お気軽にご相談ください。このブログを通じて、少しでも多くの方々が法的な知識を深め、安全かつ信頼性の高い医療サービスを享受できる一助となれば幸いです。

 

これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。